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一生出会えない親友

「俺の親友は俺を殺そうとしていたよ。」
彼は酔っぱらうと、いつも少し憂いのある笑顔でそう語ってくれた。

Imagine there's no countries
It isn't hard to do
Nothing to kill or die for
And no religion too
Imagine all the people living life in peace, You
-Imagine by John Lennon 

想像してごらん 国なんて無いんだと
そんなに難しくないでしょう?
殺す理由も死ぬ理由も無く
そして宗教も無い
さあ想像してごらん みんなが
ただ平和に生きているって...
-和訳 Akihiro Oba

世界的に有名なジョン・レノンのイマジンの一部だ。これはジョンの理想にすぎないのかもしれないけれども、私も地球を愛する旅人として、世界平和を願わずにはいられない。いつか世界中のどこからでも、どこへでも旅ができる日が来ることを切に願っている。南北朝鮮やイスラエルとパレスチナ問題、トルコ対クルド人対立など一部の利己的な汚い大人たちが起こしている問題のせいで、見ることのできない美しい場所が世界中にはたくさんある。そしてそれらのせいで、旅に出るという夢すら見ることができない人たちが無数にいる。しかし、世界は無情で絶望的な場所に感じるけれども、世界中からの人に出会いながら国境を超えて旅をしていると、ごく稀に「もしかしたら世界平和はあと一歩のところまで来ているのかもしれない」と、思わせてくれる出会いがある。これは私にそんな風に思わせてくれた2人の男の人の話だ。

サディとブレット

彼の名前はサディといった。彼とはジョージアのトビリシのホステルで出会った。イラン出身の非常に聡明で心優しい青年だった。自分の意志を貫き通す強さと、こちらが心配になるほどの繊細さを持った魅力的な人だった。彼はまた、政治犯としてイラン政府に追われ、もう何年も母国に帰れていない難民だった。

お酒が大好きな彼は、ホステルで毎晩世界中から集まる旅人たちと杯を交わしていた。そんな彼に付き合って、毎日夜更まで一緒に晩酌をしていたのがアメリカ人のブレットだ。ブレットはアメリカ人の元軍人だ。軍人であったことを御国に仕えた証だと誇りに思っているような、典型的な南部の共和党主義者という感じだった。一見正反対のように見える二人は、親友のように毎日一緒に過ごし、真面目な話でもくだらない話でも盛り上がっていた。

アフガンの戦火

彼らが同じ国で暮らすのは、ジョージアが初めてではなかった。彼らは約4年前、あのアフガンの戦火の下同じ空を見ていた。自国から逃れてきたサディは、戦争中のアフガニスタンの大学で哲学を教えていた。そしてブレットは、アフガン政府を支援するアメリカ軍の兵士としてアフガニスタン紛争に参加していた。彼は、後に親友になる男が自分の銃弾を恐れながら暮らしているということなど知る由もなかった。当時はサディはアメリカ軍人は全て悪であり憎む対象であると考えていたし、ブレットは自国がアフガンを攻撃するのには正当な理由があるのだと盲信していた。

そこから4年、サディはアフガニスタンも追われ、幾月にも及ぶ放浪の末ジョージアに辿り着いた。ブレットはアフガンの惨状の中で精神的にも肉体的にも損傷を負い現役を引退した。長期間のセラピーを経て、軍人の世界とは正反対の、国境のないバックパッカーの世界に足を踏み入れた。そして彼らはトビリシのホステルで出会った。

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出会えなかったかもしれない二人

彼らは出会って以来、毎日一緒に晩酌を嗜んでいた。サディは酔っぱらうたびにブレットと肩を組んで「こいつは俺を殺そうとしていたんだよ。」と笑いながら話していた。サディがそう言う度に、ブレットは照れと少しの後悔を隠すようにはにかんでいた。サディは続けて私にこう言ってくれた。
「俺はブレットのことを恨んだことなんて一度もないよ。彼が悪かったんじゃないよ。全部は国の責任だよ。」
ブレットも元軍人のプライドから、当時の自分を否定するような発言はサディの前でもしなかったが、彼の行動とその表情からは、自分の国がそして自分自身がアフガニスタンにもたらした影響の大きさには気づいていたようだった。サディもブレットのその気持ちを言葉には出さずに受け止めていた。

今は毎日のように杯を交わしている二人だが、アフガニスタンにいたままでは決して親友となることはなかった。ジョージアという戦争のない国で、バックパッカーコミュニティという平和な場所で出会えたおかげで、彼らは一緒に笑い合えている。国際化が進みインターネットが普及していて、どこに住んでいても同じようなコンテンツを享受できる今、国同士が争い合っていたとしても、個人同士が同じ趣味嗜好を共有して友達になることは難しいことではない。結局、国境や戦争がそれを阻んでいるのだ。私には私欲的な境界線のせいで出会えなかった友達がたくさんいる。同じ趣味があり、同じ言葉を話し、同じ思想を持つのに一生出会えない友達が数え切れないほどいる。それだけでなく、今は普通に毎日一緒に暮らしているけれども、もし世界が少しでも戦争賛成に傾いたら、もうそれ以降は一生出会えなくなるかもしれない親友が世界中にたくさんいる。

高望みかもしれないけれども、国境線が友達を分け隔てる境界線ではなくなる世界になってほしい。サディとブレットは戦火を逃れたから親友を見つけられたけれども、そうではなくて、世界中どこにいても親友を見つけられる、そんな世界になってもらいたい。

いただいたサポートは、将来世界一快適なホステル建設に使いたいと思っています。