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インターネットとコモディティ / あるいは建築部材が自由にリセールできたら面白いかも知れない・・・と思ったこと

最近興味がてらよく見ているサイトがある。

名前は "Stock X"。なんのサイトかというと・・・・・スニーカーのリセール(再販)プラットフォームである。日本にもフリマアプリなんかがあって、いわゆる転売ヤーの横行がちょっとした問題になったりしているけど、こっちはもうスケールが違う。なんせ大量のモデルが株式市場そっくりの仕組みで日々「取引」されているのだ。ここではスニーカーは、株で言うところの「銘柄」と一緒。サイズごとの売注文・買注文が「指値」できるシステムになっているのだ。キャッチコピーは "Sneakers Are a Commodity"。


コンシューマー製品のリセールにまつわる出来事といえば、渡米直後にびっくりしたことがあった。なにかというと車である。ご存知の通り、アメリカは車社会。NYみたいな大都会以外では、車は本当に必需品なのだ(そして僕は残念ながらNY在住ではない)。そんな訳で移住してすぐの頃はそれこそ血眼で中古車を探していたのだけど、そこで知ったのが"Carfax"というサービス。このサイトを参照すると、特定の車の購入履歴(オーナーがいつ・何回変わったか)や事故・修理履歴が分かってしまうのだ。車の特定にはVIN(Vehicle Identification Number)を利用している。例えばサンプルレポートはこんな感じ。

また、【ある車種の〇〇年モデル、走行距離や状態がこの程度】なら売買の適正価格はこのくらいですよ、という目安をマーケットから弾き出してくれる"Kelley Blue Book"というサイトも存在し、広く認知されている。要するに、これらのサービスを駆使すると車一台一台の価値を、ネットの力によってそこそこ高い精度で知ることができるのだ。

いやいや、よく考えたら、この自由の国アメリカでは僕ら自身がガチガチにネットワークに組み込まれていることに気づく。ご存知の方も多いでしょう、アメリカには、「クレジットスコア」なるものがあるのだ。これは何かというと、個々人のクレジットカードなんかの支払い具合を点数化したもの。支払いが滞ったりするとスコアが下がって、新しいカードが作れない・融資が受けられない、などの支障が発生する。で、このスコアは金融機関やクレジットカード会社に共有されている。要するに我々は知らぬ間に点数に置き換えられ、信用に足る対象か否かを値踏みされているのである。晴れて「信用に足る対象」になると、じゃんじゃんクレカの案内が来るようになるらしい(画像はイメージです)。

こんな感じで、アメリカでは、スニーカーでも中古車でも人間でも、隙あらば値段やらスコアが付けられ、取引の対象になっている。しかもそれがインターネットの力を借りて、広い国土スケールで情報が共有され、巨大なデータベースを形成しているのだ。

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この辺で、建築あるいはその材料について考えを巡らせてみたい。今、建材は仮設工事資材などの一部を別にすれば、リユースやリセールをする文化が根付いているとはいえない。一方で、建材はガチガチに規格化されているから、モノの特性はほぼコモディティと言って良いだろう。

それはつまり、建材は本来けっこう冗長にリユース・リセールするポテンシャルがあることを意味している。前述のとおり、仮設工事の資材(足場とか構台)は規格化に基づいて、いくつもの工事現場で使い回すのが当たり前だ。また、古い日本建築の木造部材は頻繁に再利用されていたことが知られている。今日でも残る例のひとつは伊勢神宮。式年遷宮の際、古い社殿で使われた木材は加工されて各地の神社や鳥居の材料として再利用されている。

勿論、建材をリセール・リユースする取り組みは既にある。ちょっと調べてみても有意義な事業をいくつか見つけることはできる。ただ、それらの意図は、建材の持つコモディティ的側面やリユーザビリティを、広がりをもって活用するのとはちょっと違うように思う。あとは、材料の性能情報はモノを見ただけでは分からないので、扱えるのは主に仕上材料に限られてしまう。

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ふと思う。例えば現在なら、リユーザビリティのある建築部材全てにIDを付けることも可能なんじゃないかと。そしてそこに生産・検査・保管・物流等の履歴情報をタグ付けするのだ。リユースが繰り返されたらその度に利用・加工情報を追記する。ICタグであればそれも可能だろう。伊勢神宮の鳥居じゃないけど、材料が加工を経て分割されたら、IDも分岐させればよい。

トレーサブルなIDがあれば、建材のリユースの幅も広がる気がする。例えば、信頼に足る検査履歴に基づけば、鉄骨などの構造部材や外装ガラスなどの環境性能を要求する部材のリセール・リユースも容易になると思う。ガラス・パビリオンに行った話でも書いたけれど、ガラスは物性が安定しているから、本来はとてもリユースに向いた素材だ。

IDがたくさん溜まれば、それはビッグデータになる訳で。そうすると、AIを使って性能や材料・物流コスト的に最適な部材を、固有に弾き出すことができるようになるんじゃないか。あるいは、生産・流通履歴を遡って、最も「エコロジカル」あるいは最も「エシカル」な選択をできるようになるかもしれない。

部材に紐付けられた膨大な情報はどう管理するか?この「帳簿」は例えばブロックチェーンと相性がいいんじゃないだろうか。分散管理すれば情報を後から改竄できないし。

建材のID化は、一度も使われていない資材に対しても恩恵がありそうだ。倉庫に眠っている在庫情報が全土からアクセス可能になれば、生産者や工務店の不良在庫軽減に一役買うような気がする。もしくは、ストック情報が共有されることで、特定の建材を地域の事業者組合でプール・シェアする仕組みが作れるかもしれない。生産者と施工者がP2Pで、需要に応じて様々な建材を、AIが弾き出した適正価格で取引することもできるようになるかも。

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以上、インターネット時代の建材システムに関する、いささか妄想っぽいスケッチでした。今のところは、ただの独り言ですね。でもあえて一度言葉にしてみようと思ったのは、割と昔から建材のリユースについて個人的興味があったから。きっかけは学生のとき、卒業設計のエスキスで建築生産系の先生に言われた一言。理由がなんだったか忘れちゃったけど、とにかく「建材のリユースは面白いよ。ホラ、ガラスとか建具なんて使いまわしちゃえばいいのよ」的なことを言われたのだ。

卒業してからもその言葉は頭の片隅にありながら、年月だけが過ぎていたんだけど、アメリカでネットワークやテクノロジーがモノの流通を激しくドライブし、変革させているサマを見て、なんかアイデアになるんじゃないか、と思い、書き留めてみた訳である。


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