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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
486.戦友 (挿絵あり)

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

「一番好きな食べ物だったわね! んまあ、口に入る物ならなんでも同じ位好きだけど」

 魚かよ。

「そうなの? ラーメンとかはどう?」

 お前ももっと驚けよ。

「ラーメンも良いわね! んまあ、口に入る物ならなんでも同じ位好きだけど」

 …………

 やはり予測変換をそのまま打っている様だ、嘆かわしい。

 とは言え、お見合い相手の彼は存外に優しいようである。

 ゴミみたいなコユキに言ってくれたのである。

「ねえ、コユキさん! ラーメンの大食い大会があるみたいなんだけどさ、ねえ、出てみるとか、駄目かな?」

 コユキも予測変換抜きで答える、立派だ。

「ほぉぅ、大食い大会とな? ふむふむ、それは果たして如何様な?」

 お見合い相手の男性は、面倒臭がらずにコユキに答えてくれたのである。

「参加費用三万円、は、僕が払うから良いとして…… ねえ、コユキさん! 貴女が一番になってくれたら僕も嬉しいからさっ! 出てみようよっ! 口には入るからいっぱい食べられるでしょう? ね、ね、申し込んでも良いでしょう?」

 コユキは甥と姪から差し出されて口一杯に頬張った麩菓子を味わいながら答えたのである。

「ラーメンか…… 良いわよん! んまあ、口に入る物ならなんでも同じ位好きだけど、やってやろうじゃないのよ! んまあ、口に入る物ならなんでも同じ位好きだけど、誰の挑戦でも受ける! んまあ、口に入る物ならなんでも同じ位好きだけど、なははは」


 そんなこんなで今日の戦いなのであった。

 恐らく感嘆符の後に予測変換のセリフが付いて来ていたのだろう、残念ながら誰も気が付く事無く、彼が三万円を払う事でコユキはラーメンに向き合う事になったのである。


 んぐんぐ、ズズズズゥゥ~!

「プッハアァ! 次を頼むわ! 九十七杯目ぇぇ!」

「あいよっ! へい、お待ちっ!」

 流石はコユキである、この店の最高記録を軽く越えていたようだ。

 ここまでに最高記録は三時間で二十六杯であったが、軽く九十六杯の新記録を叩き出していたのである。

 見つめる資金源である彼の視線も世紀の一瞬を見届けようと大きく見開かれていた。

 しかし、コユキはスポンサーの彼には目もくれることなく、自分に負けまいと必死にラーメンを食べ続けている、隣の席に座った巨漢を見つめ続けていたのであった。

 彼の名は知らない。

 只、ここ富士市のオーディエンスが彼に送る声援から、この男の通り名であろう呼称は理解できていた。

 『満腹ウォーリアー』

 それが彼の通り名のようだ。

 なるほど、確かにお腹一杯、もう食べれないよぉ! 的な? 所からジワジワ食べ続けるタイプみたいであった。

 三十杯位で早々と満腹になった後、黙々、淡々と食べ進めて、コユキの次点である五十杯まで辿り着いている様である。

 九十八杯目を注文しながら、コユキは横目で大男、満腹ウォーリアーを見ながら言った。

「ねえ? 満腹のぉ? そろそろ限界なんじゃないのぉ? どうなのよん?」

 ウォーリアーは脂汗を流しながら返した。

「ふふん、アンタにゃとても勝てないだろうが…… それでも! 俺も戦士だ! せめて歴代二位の最高記録を伸ばして見せるぜぇ! はははっ!」

 コユキはニヤリとしながら答えた。

「むふふ、いいわね! んじゃあ、アタシも百杯行っちゃうかな? お互いの健闘を祈るわよ! がんがろう! ねっ? ね! 九十九杯目ぇ! ぐふっ、持って来てちょうだいぃぃぃ!」

「あ、あいよ!」

「コユキさん! 頑張ってぇぇ! か、格好いいぃぃ~!」

「チイィっ! ぐふっ、ぐふっぅ~!」

 ぐふ? ぐふ、だと?

 コユキともあろう者が、こと、食べる事にいて苦しそうな声を出すなんて事が今だかつて有っただろうか?

 ハッキリ言おう、皆無だった筈である!

 響灘ひびきなだで海水をしこたま飲まされた時ですら、チーチーと排出するだけで苦しそうにはしていなかった筈である。

 では、なぜ今? そんなに苦しそうなのであろうか?

 無論、普通の人間にはラーメン九十八杯完食なんて出来る訳が無い。

 でも、そこはコユキなのである。

 ここまでお付き合い頂いたオーディエンスの皆さんにはコユキが普通じゃなく異常、はっきり言って人外の化け物である事は言うまでも無い事であろう。

 では何故なにゆえにコユキが苦しそうな声を上げたのだろうか?

 理由は簡単! 応援している今回のサポーター、ちょっと前に無理やりお見合いさせられた男性の取った行動に対して精神的な圧迫、所謂いわゆるストレスとか何とか云われる物を感じていたのである。

 頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ、とか何とか無責任に喚いていやがる…… 

 コユキは途中から思っていた。

――――は? 頑張ってんじゃん? 何連呼してんの? てかお前は? 何かやってんのかよ、ってか何かやれよ! お前がテーブルの下にでも潜んで一杯でも二杯でも食ってくれてりゃ念願の百杯行ってるんじゃあ無ぇーのかよ? 何、離れて応援していやがるんだ! この傍観者めがぁ! ああ、もう、一気に冷めたわぁ! やっぱ男の人って自分の背中を任せられる、一緒に戦ってくれる人じゃなくちゃダメだわねぇ~、 …………こいつじゃないわぁ~

 フム、成程、そりゃそうだろうね、一般の女性でも家事や育児に男性の助力を求める時代だもんなあ、ましてや聖女様、それも真なる聖女として悪魔どころか魔王や魔神と対峙し続けるコユキに取っては、今回のお見合い相手の男性はいささか頼りなく見えたとしても仕方が無い事であっただろうなぁ。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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