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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
422.Organize ①

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 次なる目標、バアルのクラックが尾瀬に有る事を知った『聖女と愉快な仲間たち』のメンバーは、はやる気持ちを必死に抑え更に二日近くを幸福寺内での準備に費やしたのであった。

 その理由としては主に三つ。

 一つ目であり最大の理由はオルクスが座標を特定した事に直結しているのであった。

 ラマシュトゥやシヴァ、アヴァドン、いいや『お前だよ』の一号から三号までが明らかにした魔法陣から、逆にスパイクしていたオルクスの魔力探知は、見事にバアルの潜むクラックを見つける事に成功していた。

 と、同時にスパイクした相手、オルクスにとって因縁薄からぬ人物、ズタ袋を渡されると同時に自分自身に対して何らかの精神攻撃、具体的にはイチゴ味の飴ちゃんに興味を持つ様に誘導し、結果二十四年間も無我の状態に追いやった存在が、こちら、幸福寺や茶糖家を特定した、その事実を確認したことに依るのであった。

 オルクスは皆に向けて言った。

「キット、クルヨ、コッチ、モ、バレタ、ゾッ!」

 敵がいるのは群馬、新潟、栃木をまたいだ日本でも有数の美しさを誇る湿原であり、高原である。

 ここまでの邂逅かいこう、いいや待ち伏せと言い切ってもいいだろう敵勢力の用意周到さは、ペナンガランやマナナンガル戦から容易に想像できた。

 高い練度と作戦遂行に掛ける集団意識、バアルへの忠誠からであろう死をいとわない勇猛果敢ゆうもうかかんさも持ち合わせていた。

 反してこちらは未だ攻守の役割分担もままならない、なんちゃって発進の適当軍団である。

 可及的かきゅうてき速やかに軍団の編成を迫られてしまったのが一つ目の理由であった。

 なにしろ格好付けてばっかりのがが揃い捲っている『聖女と愉快な仲間たち』である、お留守番とか守備陣とか縁の下の力持ちとか大っ嫌いな奴しかいないのであった。

 その上、こんな時に軍務を一手に引き受ける軍師的な存在も決めていなかった体たらく…… まとまる訳なんか無いのである。

 全員が、攻略組に参加したい、参加する、参加できなきゃ辞める、もう辞めちゃうんだからね! とかしか言わない我儘三昧わがままざんまいな状態は、会議とか呼べる代物しろものでは無く、世界一決定戦、一番セルフィッシュな馬鹿野郎は誰だぁ! みたいになっていたのであった、はあ……

 アスタロトが中心メンバーを代表して大声で告げたのである。

「皆が皆、攻め込みたいと言ってしまっては、誰がこの拠点幸福寺と第二拠点たる茶糖家を守ると言うのだ! 想像してみろ、攻略勢が勝利を収めた後、戻るべき拠点が失われていたとしたら? その勝利に意味など無いではないかぁ! それでも打って出たいとか言っちゃうやつは只の馬鹿だと思うがなあ? どうだ!」

 アスタロトの言葉に頷いて周囲を見渡した口白クチシロは、態々わざわざ合体して神狼の姿と濃密な魔力をみなぎらせながら言うのであった。

「魔神アスタロトの言う事は尤ももっともだ! 誰も彼もが前線に立つ能力を有している訳ではないからな…… ここは我々『神』達が攻略組として赴くことに納得してもらうしかないだろうなぁ、まあ、納得しないなら掛かって来ても良いんだが、なぁ?」

 言った直後、僅かわずかに広げられた口の脇から高熱の炎をチラつかせて、両手に紫電を纏うのであった。

 周囲の悪魔達、特に編みぐるみ達の喉がゴクリと鳴って一転静まり返る中、大きな声が本堂に響いた、アジ・ダハーカの物である。

「確かに魔神や神狼相手にまともに戦って勝てる魔王や悪魔は少ないだろうな、かくいう俺だって到底勝てる気がしないしな、一対一では、ですけど」

「なんだと!」

 アジ・ダハーカの挑発的な言葉を咎めるとがめる様な、口白の問い掛けに答える声は無く、代わりに二メートル程の緑の竜が八体、口白に対峙するように姿を現すのであった。

 焦った声でコユキは叫ぶ。

「ちょっとやめなさいよ! 口白ちゃんもアジ・ダハーカ君も、味方同士で争ってる場合じゃないでしょ!」

 善悪も大きな声で静止した。

「話し合いで決めるって言ったでござろ! 口白が煽ったあおったのが悪い! でも簡単に挑発に乗ったアジ・ダハーカも同罪でござる! もうお前ら連れて行かない事決定! ほら、争う理由がなくなったのでござるよ! 握手して仲直りするでござる! 握手! ほらっ握手だってばよ!」

 善悪の言う通り、両者とも攻略組、遠征チームから外されたのであれば、ここで戦う理由は消失したのだが何故だろう? 双方とも構えを解かず緊張感を漂わせながら睨み合いを止めようとしないままであった。

 はてな? そんな私、観察者の疑問に答えたわけでは無いが、タイミング良くアスタロトが教えてくれたのである。

「善悪、上位の悪魔にとって強さとは特別な意味を持っているんだ、生命の量と濃度それこそが己の強靭さに直結しているからこれは仕方ない! ましてや下位の悪魔からの挑戦を受けて立たない悪魔など、軽蔑され全ての友誼ゆうぎを失う事になるだろう、つまりラー、口白の方から闘いを止める事は出来ないのだ」

 これを聞いたコユキはアジ・ダハーカに向かって叫ぶ。

「じゃあ、アジ・ダハーカ君が止めればいいのね! アジ・ダハーカ君謝りなさい! ゴメンなさいって、ゴメンなさいってしなさいっ!」

 狂ったようにゴメンしろと言い続けるコユキだったが、アジ・ダハーカと八匹の緑竜は構えを解こうともせず口白を睨みつけたままである。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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