堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
150.スプラタサーチ ①
ダイヤモンドという単語に目を丸くして興味津々だったコユキだったが、善悪の話の前半部分で無価値だと聞いて急速に塩対応になっていった。
唯一上野動物園で出会った母子が善悪の親戚だった下りにだけは、
「ああ、幸福なんて珍しい苗字だからそんな事なんじゃ無いかと思っていたわ、ってか、一目見て分かったわよ、母親なんて善悪ん家おばさんにそっくり! 激似だったわ」
とか適当な事を言っていた、何しろ母親の方って善悪の一族から一滴の血も引き継いでいないのだからね、全くこの大嘘吐きめがっ!
義憤に駆られる私、観察者であったが、善悪始めスプラタ・マンユの面々は、端から相手にしない事に決めていたかのようにコユキの話しを聞き流すのだった。
「まあ、我輩からの報告はそんな所でござる、こちらはどうであろ? 首尾は? 」
お出掛け先での報告を終えた善悪は、スプラタ・マンユ、特にラマシュトゥとシヴァに意識を向けて尋ねる。
それに気付いたシヴァが若干申し訳なさそうに口にした。
「色々試してみたのですが、さほどの収穫はありませんでした…… 申し訳ありません」
落ち込んだように目を伏せた弟の言葉を引き継ぐようにラマシュトゥが続けた。
「レッサーデーモンの魔核に残っていた魔力は確かにアスタロトの物でしたわ、ですが、何を目的に顕現したかについては読み解けませんでしたの…… なにしろ、施されていた術式が解読不可能な程破壊されてしまっていたので……」
「くふふふふ、珍しく弱気では無いか兄上、姉上、いつもの大言壮語はどうした? くふふ、魔力操作なら右に出るものは居らんのでは無かった、か……」
ラマシュトゥの言葉に、アヴァドンが呆れたように口を挟んだが、逆にラマシュトゥからキッと睨み返されてそれ以上話すのを止めた。
「ええ、私達二人であれば、魔力紋の解析など容易い事ですわ、但しどこかの愚か者が『支配者』を展開したせいで、上書きしてしまわなければですけれど」
ますます黙りこくるアヴァドンを慰めるようにパズスが言った。
「待つが良い、妹よ、そもそもアスタロトが術を施したと言うのであれば、アヴァドンの技でも容易に上書きなど許さないのでは無いか? ましてや、今と違い依り代も無い魔核のみの状態での『支配者』では、そこまでの効果は期待できないだろう! アヴァドンもそれが分かった上で展開したのだろう? 」
「あ、兄上……」
ここまで黙って聞いていたアジ・ダハーカが確認するようにシヴァに問い掛けた。
「シヴァ、魔力の残滓はアスタロト、彼奴の物で間違いは無いのであるな? 」
「ああ、あの焦げ臭い嫌な魔力はあいつの物で間違いなかった! ネヴィラスの野郎と良く似た下品な魔力だったぜ」
聞かれたシヴァは、太古の昔に、自ら痛めつけたアスタロトの眷属を思い出したのか、不愉快そうな声音で返した。
会話が途切れるのを見計らった様に、モラクスが自分の考えを口にする。
「なるほど、魔力がアスタロトの物でありながら、不完全な状態の『支配者』によって上書きされた、つまりアスタロトは完全に復活した訳では無く、極めて不安定な存在として復活したと言う事だろうか? 『馬鹿』のように…… 本来、魔界での再生に於いて『馬鹿』である事は考えにくいが、そうとしか考える事はできない、そう言う事であろうか、兄者? 」
「ソソ」
最後はオルクスが肯定することで、最高位の悪魔達の意見は、漸く纏まりを見せたのであった。
「んで、これからどうすんのよ? 」
ちゃんと聞いていたかどうかは分からなかったが、コユキは自分の席の周りをお菓子の包装紙だらけにしたままで問い掛けた。
「サガス、ヨ…… マリョク、タドッテ…… マカイ、ノ、イリグチ…… ヲ」
「え、そんなの出来るでござるか? 」
オルクスの答えに更なる質問を被せたのは善悪であった。
悪魔たちを代表するようにモラクスが答えた。
「はい、アスタロトの魔力を特定しましたので、兄、オルクスの魔力察知で魔界との境界に生じたクラックを特定する事が可能です。 ただし、僅かに漏れ出るムスペルへイムの瘴気を探し出すには膨大な魔力が必要になります。 ですから、我々弟妹全員で魔力を補填し続ける必要があるのです。 恐らく長時間になると予測できますので、コユキ様、善悪様お二人は普段通りにお過ごし下さい。 申し訳ありませんが、暫く本堂をお借りしたいのですが、よろしかったでしょうか? 」
勿論二人に否はなかったので、七人が頑張れるように応援をして本堂へと送り出したのである。
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