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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
449.車座

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 コユキは驚きの視線を崩さずに答えるのであった。

「驚いたわ…… スキピオ君、アンタ善悪そっくりじゃないの…… 眼鏡かけたら区別出来無いんじゃないの? なんだろね? 先祖とか? そ~言う~?」

 なるほど、短く刈り込んだ坊主頭もムキムキバージョンの善悪に似ていると言えば、ってかそっくりであった。

 嬉しそうに微笑むスキピオの前に歩いてきたネヴィラスとサルガタナスは、付き従えたあか三柱、あお三柱、合わせて六柱の悪魔を指さしながら言った。

「善悪様、この者たちもお見知りおきくださいませ、ん? 善悪様、お眼鏡はどうされました?」

「はぁっ! ね、ネヴィラス、ぜ、善悪様が、ふ、二人いますわ! こ、これは一体……」

「お前ら絶対態とわざとやっているでござるな」

「てへへ」

「おほほ」

「いや俺も最初入って来たの見た時スキピオじゃん、って思っちゃったもん! これ絶対血縁関係あるんじゃね? って確信したよ~、それにしてもスキピオとはねぇ~! 久しぶりだなぁ、お前も晩年は俺と同じだってバアル様から聞かされてたからさぁ、結構心配してたんだぜぇ? 不遇な扱い受けたんだろう? 俺、こう見えてお前の事は認めてたからなぁ~」

 ……………………

「なに? なんで皆、急に黙ってるんだよ? おい、スキピオ、何とか言えってば!」

 急に黙り込んだ一同の態度に狼狽えうろたえて昔馴染みの名を呼ぶハンニバルにコユキが言ってやる。

「アンタしれっと会話に入ってんじゃないわよ! 今から戦うんじゃないのぉ!」

 コユキの尤ももっともな言葉にチャラく首を竦めすくめて見せるハンニバル、カルタゴの英雄であった。 

 車座くるまざに座って善悪が一所懸命に運んできた、虎〇さんの羊羹を食べながら話し合うメンバーの数は十四柱。

 コユキ善悪アスタの三人に加えてスプラタ・マンユの七柱、ネヴィラスとサルガタナスにハンニバルと彼の副官である弟のカルタゴ人、ハスドルバル・バルカである、こいつの名前の意味はズバリ、『バアルこそ我らの救い』、である、兄に負けず中々に、いや重度の狂信者風味が感じられる男であった。

 ハスドルバルは丸く座った面々に言うのであった。

「ですから我らが主上、バアル様の心中に有るのはたった一つ! 兄たるルキフェル様への忠誠、只々それだけなのですよぉ! あれ? 何ですか、この黒い奴! 美味いですねぇ! こんなの初めての旨さですよぉ!」

 アスタロトが完結に答えながら言う。

「ああ、羊羹って言うんだ、美味いだろう? にしても、我の認識通り、バアルは昔と同じで兄上に心酔している様だな? 当然、偽物を見抜く観察眼も他者に比ぶるべくも無いであろう、そのバアルがここまで心酔しているとは…… なあ、善悪! 偽物のやつ結構ヤバい感じだな? 強敵だぞ」

 善悪が頷いて栗蒸しなやつを口に運びながら答える。

「ん、でもさ、今は偽ルキフェルよりも先に、バアルを連れ出す、魔核に戻して幸福寺へと連れて行く事が最優先事項でござろ? なんか偉い感じの御方おんかた達の指示はそうだった筈でござるよ! まあ、偽物が強敵なのは、仮面を着けたライダーでも、ウルトラなマンでも鉄板でござるからね、コユキ殿がいつも言ってるように目の前の一つ一つに向き合って行くしかないのでござらぬか? ね? コユキ殿!」

 コユキはチョコレートを頬張りながらあからさまに面倒くさそうに答えた。

「は? ならそうなんじゃないの」

 因みちなみにこの間、ネヴィラスとサルガタナスが連れて来た六柱の悪魔は車座を囲む様に背後に立っているままであった。

 コユキと善悪の再三の言葉、座れ! を『いいえ、とんでもない』の定型文だけで却下し無視し続けた頑固者達。

 名前だけでも紹介しておくとしよう、赤い装束に身を包んだ三柱はネヴィラス配下の獣臭が強い男前たち、アイペロスとナベロス、そしてグラシャラボロスと名乗った。

 青い方の三柱は揃って女型の悪魔、ゾレイ、ワルファレ、ファライーと言うそうだ。

 ついでに告げられた別名では、ゾレイは日本人が言う所のドルイド、植物の精霊であり、ワルファレは水の精霊ウィンディーネ、ファライーは風の精霊シルフィードらしく、大地の精霊サルガタナスやラマシュトゥや赤べこのラビス同様、ウトゥックに名を連ねる大精霊の一角、所謂いわゆる大物であったらしい。

 その他の戦士たちもそれぞれ輪を為して語り合い、紀元前二世紀の思い出話に花を咲かせていた。

 あの時代の戦奴せんどは許されて正規兵になったり、降伏してケントゥリアと呼ばれる百人隊単位で敵方の傭兵ようへいになる事も珍しくは無かったのである。

 有力な将軍の元に侍るはべるまで勝ち抜いてきた精鋭であれば、敵味方の区別なく顔見知りである事は、云わば普通の事でもあったのだ。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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