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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
450.命日

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前回までのあらすじ

 色々あった結果、バアルとの決戦に臨むのであった。
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 沢山の魔核をズタ袋に入れ終えたトシ子は、袋を丁寧に折り畳んでご本尊の足元へと置いた。

 いつに無く物憂げものうげな表情のトシ子である。

 何故ならこの日は今は無き前夫ぜんぷの命日だったからだ。

 誰に言うでもなく言葉が口をついて出る。

「お爺さん、あたしゃ若返って楽しくやっているよ、アンタもそっちでヨロシクやってんのかい?」

 終戦の年に祝言を上げて以降、七十年間連れ添った伴侶はんりょを看取ってから、はや六年の時が流れた。 

 戦後の混乱の中、力を合わせて子供達を育て、お互い必死な想いで働き続け、尚つ聖女としてのトシ子の戦いにも理解を示すだけでなく、多方面での支援に尽力じんりょくしてくれた稀有けうな存在であった。

 どんな時でも自分や子供達や孫たちに対して、穏やかな笑顔を絶やさない優しい男性であった。

 今日は朝からそんな事ばかりが思い出されて止まなかったトシ子は、何度目かの合掌をご本尊の大日如来に向ける。

 なるほど……

 そりゃアスタロトとの『存在の絆』が一時的とはいえ断絶してしまっても仕方が無いのではなかろうか?

 別にアスタロトの事を嫌いになったり冷めた訳ではないのだろう、不謹慎かもしれないがチョットホッとしてしまった私、観察者であった。

「お爺さんが最後に言ってくれた、良い人がいたら嫁げって笑い話ね、今更って思ってたけどさ…… それが嘘みたいなんだけどさ、現れたんだよ、今一緒に暮らし始めてるんだ…… 優しくて男前でね、ストレートに自分の気持ちを伝えてくれる情熱的な人なんだ…… でもね、何て言うのかな、生活力? とか常識力? んまあ有態ありていに言えば経済力と知性が圧倒的に足りないんだよね! 今の生活だって善悪におんぶに抱っこの体たらくでさっ! コユキの馬鹿にお饅頭貰って、ワーイ! とか、けっ! 男としてのプライドとか無いのかよ? なまじ顔や見てくれが良いから逆に思っちゃうんだよね、ホストとかヒモとかって単語がね、浮かんで来る訳よ! 働かないから一緒にいる時間が長い訳でしょ? だから却ってかえって見えない部分ってのがあるんだと思うんだけど、今日みたいに出掛けてると逆に冷静に見えるのよ! トータルで見た時っていうの? 総合点で見たらこいつ結構レベル低くね? ってさぁ~、まあ完璧な男なんかいないんだろうけど、アタシも若返ってこれからだしねぇ~、一人の男に縛られる必要は無いな、って事を感じるのよね! つまり今後どうするかはアイツ次第って事に決めたよ! フットワークは軽く、決断する時は一瞬で! そんなスローガンでやって行こうと思っているんだよ、お爺さん…… 南無南無」

 ホッとしている場合では無かったようである、アスタロトには頑張って貰いたい所だ。

 そんな風に私が思っていた時、本堂に駆けこんで来た者による叫びが私の思考を遮るのであった。

「トシ子の姐さん! 来たようですよ! バアルの軍勢だと思いますが、ヌフフ、身の程を知らぬ愚か者どもです! 如何致しましょうか? ヌフフフ」

 可愛らしい白い猫の『規定きていさん』の姿に身をやつしたベレトがトシ子に向けて敵の襲来を告げたのであった。

 五十年ほど前まで魔王たる彼らを率いて、悪魔との闘いの最前線で日々の殆どほとんどを死闘に費やしていたトシ子は瞬時に往時の鋭さを取り戻すのであった。

「行くよ、ベレト! ゼパルとカイム、いいやカイム、あの子は今はいなかったね、ガープは迎撃しているんだろうね? 口白クチシロのワンちゃん達は? 報告しな!」

 ベレトは過ぎ去った日々を思い出しながら、ちょっとした感慨を胸に抱きつつ報告をするのであった。

おうっ! 敵は三方から攻め寄せていますが、口白様は現在三体に分離して境内の三方に立っておられます、ゼパルの兄貴が変身メタモルフォルノの能力でそれぞれを、スイカ、バナナ、リンゴに擬態させて虫、甲虫型の敵を引き付けています! ガープの旦那はそれ以外の敵勢力を罹患りかんさせて食い止める事に成功! 編みぐるみ達は迎撃をすり抜けて来た敵に対して個別に対応している、それが現状です!」

「ふむ!」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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