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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
443.上質なキトン

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 上下の顎すら失い、数本の前歯だけになったイーチだったものにコユキのカギ棒がプスリといって、僅かわずかな霧と化しイーチの記憶がコユキと善悪に流れ込んでくる。

 亜麻あまを編んだ純白のキトンを身に着けた背の高い偉丈夫いじょうふがこちらを見ていた。

 豪華な深紅のマントを背負い、肩を飾るポルパイも何かの猛獣の牙で作られた大仰おおぎょうな物である。

 煌めくきらめく黄金の王冠とルビーの嵌め込まれたこちらも黄金色こがねいろ笏杖しゃくじょうをもった髭面ひげづらの大男は、胸のたっぷりとしたドレープから逞しく分厚い胸板をチラ見せさせながら叫んだのであった。

『勘弁してくださいよー! 全くぅ!』

 あれ? 記憶、なのか? これ……

 まあ、兎に角、コユキの前にはダキア王、ブレビスタの魔核がコロリと転がったのであった、これで復活可能である、良かった良かった。 

 善悪がホッとした表情を浮かべながら言った。

「なんか凄く怒っていたのでござるな、ふぅ~、んでもまあ逞しくて格好良い王様だったのでござる、生前は…… 依り代は牙を剥くゴリラで決まりっ! かな?」

 コユキが答えて言った。

「そうね、間に合って良かったわね! アタシの印象もゴリラに一票よ! でも意外だったわねぇ、王様とか言っていたからもっと贅の限りを尽くした感じかと思ってたんだけど、意外に質素なんだもん、亜麻だったし只の白だった事に驚いちゃったわよぉ」

 親切な坊主が解説してくれる、因みちなみにこの間ヒュドラの滅殺光線は打ち続けられており、アスタロトの鼻提灯はなちょうちんも元気に拡縮を続けている。

「ああ、現代に生きる僕チン達の価値観だと素朴に見えるかもね、んでも当時のダキアにとっては純白ってだけでとてつもない逸品だったのでござるよ! ギリシャとかローマだったら絹製品もボチボチだけどシルクロード経由で入って来ていたのでござるが、それとても高温な土地柄では暑っ苦しくてね、当時のグレコローマンでは一々糸を解しほぐして織り直していた位なのでござるよ~、さらにシルクロードの道筋からずれちゃってるダキアでの一般的な繊維と言えば古来から同じ羊毛、毛糸だったのでござるな? そんな中でエジプトや北部アフリカで作られた繊維、亜麻はそれだけでも最高級品だったのでござる! それも白かったでござろ? 薬品による漂白が確立されたのは十八世紀、つまり当時のブリーチ、漂白作業は全て収穫した繊維を真水でふやかして太陽光に晒す、乾燥した物を又、水に漬けて太陽の力で脱色する、それを何度も繰り返した上で糸の形状を残せたほんの僅かわずかな物だけを使って紡ぎ、織り込んだのでござるよ! どう? ここまで聞けば純白の衣装がどれほど貴重な物なのか分かるでござろ? 因みちなみにヨーロッパや中東、中華で白い絹が一般的で安価な物となるのは中国の天蚕てんさん、ああ、これは緑の絹ね、じゃなくて日本産の養蚕ようさんによる純白の絹糸が中国に輸出された頃らしいのでござる、大体スサノオノミコトや大国主命オオクニヌシノミコトの時代位でござるよ、弥生時代でござるな!」

 この坊主は一体何だよ? 生きる為に直接関係ない事に興味持ち過ぎだから、反動で普通の人間関係が構築出来ないのでは無かろうか?

 コユキは言った。

「へーそうなの」

 興味なさそうに答えたコユキでは有ったが、実の所、善悪が語ったカルト過ぎる話から一つのヒントを得ていたのであった。

――――織り直す? 編み直すって事だよね? んんん? 何か引っかかるような…… はっ! そ、そうか! よしっ!

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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