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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
639.レーテー川

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 物忘れの川、レーテー。
 人が死を迎えた後、魂を洗い流す為にこの川の水を飲んで前世の全てを忘れ、リセットする場所である。
 アートマンとして魂が記憶や自我を維持し続ける偉人や英雄、大罪人はこの水を飲まず、神や悪魔、天使として支持者たちの信仰を集めるのだ。

 それら以外の大多数、所謂いわゆる中庸ちゅうような人々の魂は、迷うことなくこの水を飲み、ブラフマンとして新たな命の原料とされる、ペールギュント風に表現すれば、衣服をあつらえる際に古いシャツのボタンを使いまわす様に、別個の命の一部として生まれ変わると言う訳である。

 コユキは川縁に近付いて、凍り付いた川面をスニーカーの底でコツコツやっている。

「カチコチに凍っているわね、渡れそうだわ、行ってみましょうよ」

 トシ子が答えて言う。

「そうじゃのう、中央に有るのがコキュートス、その周りを何本かの川が囲んでいるんじゃろう? 渡って中央に向かうのが良いじゃろうのう」

 パズスが頷きながら返した。

「ストゥクスが下流でアケローンと名を変えてヘルヘイムに向かいますから、大きな川としてはこれが最後になりますよ、トシ子様の言う通りここでショートカットして中央に向かいましょう、アスタロトやバアルに追いつけるかも知れません」

 そう言うと自ら先頭に立って氷河を渡り始めたが、少し進んだ所で仰向けにスッ転ぶ。

 ガキンッ!

「痛っー!」

 それを見た一行はそれぞれ思い思いの予防策を打った後、慎重に渡河を開始するのであった。

 リエとガネーシャはスカンダのピンクの雲、筋斗雲きんとうんに乗り込んで余裕の風情であった。
 筋斗雲はパーティー限定なのだろうか? リョウコは巨体のカルキノスの爪も含めた八本の足に、植物の蔦を集めて滑り止め、かんじき的な物を巻き付けてからその背に乗って、便乗したそうにしていたレグバ四柱を引き上げていた。

 お猿のフンババは既に二メートル位まで大きくなっており、氷が嬉しいのか、ヤッホッーとか言いながらレーテーの川面に尻をついて滑り、はしゃいでいる様だ。

 トシ子は岸の土を使ってセラミック調のスケートっぽいブレードを作り、けいの紐で自分の足裏に縛り付けていた。
 その横でペコペコ頭を下げているのは虎大と竜也の兄弟である。
 上手いかどうかは定かではないが、彼らはスケートで渡河する事を選んだらしい。

 シヴァはとっくに出発しており、一行に先立って既にレーテーの川幅半分程の位置に達していた。
 片手でヒュドラを掲げた姿勢のままで、何かを使う事も無く裸足を滑らせて猛スピードで対岸を目指しているのであった。

 我らがコユキは腹這いで、でっぷりとした腹を凍り付いた水面に当てながら、シヴァとヒュドラのすぐ後をクルクル回りながら追い掛けていたのである。
 背中に乗ったカイムは嬉しそうに回転する景色を楽しんでいる様だ。

そんな事をしたら、お腹が冷えてしまうのでは? 今夜はピーピーですよね?
 そう言う心配には当たらない。
 だって公時の腹掛けが有るからね!

 常に自分が持ち得る物で、最大の結果を求める策士、善悪の相方、コユキの真骨頂だと言えるのでは無いだろうか?


拙作をお読みいただきありがとうございました!


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