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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
278.太陽系第六惑星

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 なにも七十近い親父にプレゼントなんて無くても、そう思うだろう。
 確かにリエやリョウコは長年の惰性で贈り続けているだけなのだが、ことコユキに取っては死活問題なのである。
 二十年近い間ニートに甘んじてきたコユキに取って、家族からの施し、月々のお小遣いだけが収入では無かった。

 現在進行中で壊れたままのパソコンや趣味である腐ったブルーレイ、一年分の毛糸や編みぐるみ用のドールアイ等の値の張る物品を集るたかるには誕生日が最も容易くたやすく強請ゆすれる、それに早い段階で気が付いていた狡賢いずるがしこいコユキは、集れそうな相手、家族達の誕生日には欠かす事無くプレゼントをし続けて来たのである。

 勿論高価な物など贈りはしない、本末転倒になってしまうからだ。
 所謂いわゆる『エビで鯛を釣る』、価格よりも心のこもった贈り物、込めた心はプライスレス、ってな具合であった。

 去年の父ヒロフミへの誕生日プレゼントは、妹たちと海に行った時に拾ったフックが錆び切ったメタルジグであった、一般的にはゴミと呼ばれる物である。

 こんな物であってもコユキの口車、

「仕事(農業)とゲーム、漫画ばかりじゃなくて、たまには釣りでもしてリフレッシュして欲しくてさ! 長生きしてね♪」

 この程度の事でコロリと騙される、チョロイ家族達であったのだ。
 因みちなみに前回の誕生日に妹リエにあげたのは茶畑で拾った『蛇の抜け殻』である。

「旦那さんの商売がいつまでも上手くいくようにね! ……でも、ごめんね、お姉ちゃんお金無いから、こんな物しかあげられなくて グスっ」

と嘘泣きまで絡めつつ同情まで買う事に成功し、自分の誕生日にはリエに大量のラノベを購入させている、全く賢い肥満女だ。

 そこまでこだわっていた家族の誕生日を失念していた主な理由は、去年の夏の家族の魂強奪事件で忙しかったからではない。

 記憶力の良いオーディエンスの方は覚えているだろうが、この日からさか上る事二ヶ月前にパソコ(パソコン)が動かなくなり、これを受けてコユキは強烈なBLロスに陥ってしまった。
 リエの努力(洗脳)が功を奏し、一ヶ月前にはこれまで頑なに拒み続けたお見合いを受け入れる所まで顕著けんちょな変化を見せたコユキ。

 ほんの十日前に腕に覚えが無い絵ではなく、得意の編みぐるみで『狂乱の迷宮』のメインキャスト達を文字通り編み出し、レッサーデーモンの魔核を収める事で動きまわらせて、何とか自我を取り戻す事に成功したのだったが、それまでの五十日間のコユキは俗に言う『心神喪失』状態に陥っていたのである。
 大切な家族のバースデイを忘れてしまっていたとしても仕方が無い事と言えよう。

 仕方が無いとは言え、自分の誕生日での『プレゼント返し』、大体百倍から千倍返しをみすみす逃すほど、コユキは反沢属性(反半沢の事)持ちでは無い。

 故に大急ぎで考え始めるのであった、安価でそれっぽい贈り物(ゴミ)の事を。

――――どうするか? まさか甥姪の為に取って置いた松ぼっくりや団栗どんぐりって訳にもいかないし…… 肩叩き券じゃ幾らなんでもねぇ…… お、去年踏ん付けて壊しちゃったセガサタ○ンを直してあげるとかいいな、でも現実的じゃないわね? 善悪だったら直せたりするのかな? ああ見えて結構器用だし、ラマシュトゥちゃんの改癒って生き物だけだっけか? 一応聞いてみるか

 そう決めると、嬉しそうに善悪からのお土産を見ている母ミチエを玄関に残し、自室へと戻って行ってしまうコユキであった。


 帰ったハズの善悪が人造の生命体の十八番目、見た目は気が強そうな美人さんのソフビを伴って、再び茶糖家の広い庭に軽バンを停めてコユキの部屋に声を掛ける。

「コユキ殿、連れて来たでござるよ! 降りてきてーでござる!」

 間を空けず階段の下に不意に姿を表したコユキは自らが半年前に踏み潰したセガ○ターンを見せながら聞いた。

「サンキュ、善悪、ラマシュトゥちゃん! これなんだけどね、どう直りそう?」

 善悪のてのひらに乗って眺めていたラマシュトゥは自信有り気に頷くと、早速スキルを使用する。

強靭治癒エニシァシ

 壊れたゲーム機を包み込んだピンク色の光が消え去ると、すっかり直って新品同様の姿を表したのである、プレ○テ4が……

コユキは驚きの声をあげる。

「んな! メーカー変わっちゃってるじゃない! なんで?」

善悪が首を傾げながらも返事をするのであった。

「ん~? たぶん数世代進んだ形で改癒したのでは無かろうか? ほら、メーカーとしてはドリキャスから先が存在しないであろ? ソフトの継承先としてはこっちのラインもアリなんじゃないかな、コンシューマーゲームは間口が絞られて来ているでござるし、でござる」

「ふーん、そうなのか、それでも残念ながら失敗ね…… 家のお父さんってソニ○クしかやらないのよ、何でか知らないけど…… ソニ○ク出来なきゃ意味無いのよね」

「出来るでござるよ、マニア出てるし」

「へ? ま、マニア?」

 コユキは知らなかったのだが、歴代のソニ○クがプレイできるゲームソフトが発売されていたのである。
 善悪の説明を受けたコユキは嬉しそうに二人揃って(ソフビも一緒に)父ヒロフミが籠もっているであろう居間に向かうのであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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