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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
430.モウセンゴケ

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

 モウセンゴケ、所謂いわゆるハエトリソウの仲間である。

 支配者バシリアスの効果を乗せた蹂躙カリンマの命令に従って、地下茎を限界越えで伸ばしたのであろう、元より土塊つちくれに生息していた見事に葉とピンクの粘毛ねんもうを広げていた数株は腐り落ち、代わって数万の小さな幼い苔達が僅かわずかに周辺の地面から顔を出しているのであった。

「プッ! 笑わさないでよアヴァドン! こんな小さな苔が何の攻撃になると言うの? アンタも随分『馬鹿』になった様ね、それもその聖女のせいなんでしょ? 今、目を覚ましてあげるわ! お兄ちゃん、ケヒヒヒ、今度こそヤルヒボール太陽神としての務めに励む事ねぇ、ケヒヒヒヒィ」

「モラクス兄者!」

「『強襲エピドロミ』『変形アラージ』『限界突破オーヴァーリミット』」

 モラクスの周囲にお馴染みの黒々とした魔力の球体が浮かぶ、いつもより一つ一つは小さかった、いや小指の先ほどの極小であったが、驚いたのはその個数であった。

 優に万を超える魔力の球がモラクスを囲むように浮遊していたのであった。

「『暴爪弾アサルトバレット』」

「ヒっ!」

 モラクスが口にした瞬間、アルテミスは人を馬鹿にしたようなポージングを止めて、思わず頭を抱えて蹲るうずくまるのであった。

 だが、モラクスの周囲の球体はアルテミスやその身を構成した蝿達に襲い掛かることは無く、周辺の地面を打ち抉りえぐり続けていたのである。

 数秒後、全ての弾が自身になんら影響を与えていない事を確認したアルテミスは姿勢を尊大な物に戻し、声を張って自身の次兄に向けて言い放ったのであった。

「け、ケヒヒヒヒぃ! モラクス兄上も衰えた物ねぇ~! 一瞬驚いたけれど、まさかこれ程精度を失っているとはねぇ~、可哀そうだわぁ! ね、そう思うでしょ? お姉ちゃん!」

 言葉を向けられたラマシュトゥは一切相手にしないままで、スキル発動の言葉を叫ぶのである。

「『強靭治癒エニシァシ』」

「は?」

 アルテミスの疑問の声に答える者は一人も居らず、ラマシュトゥがスキルを施したモウセンゴケ、一瞬前にモラクスの弾丸に撃ち抜かれたハエトリソウ達が凶悪な進化を遂げたのであった。

 先程迄、地面からチョコンと数ミリの幼体を覗かせていた苔ちゃん達は、今や二メートル程迄大きくなって、真っピンクの粘毛もそれぞれ四十センチ程に伸ばしてウネウネ蠢き捲り、羽虫を惹き付ける為の物だろうか、ドリアンみたいな強烈且つ濃厚な甘い香り、フェロモンを周囲に漂わせていたのである、それも余裕で万を超えるのだ。 ※大事な事なので二回目です。

 ポワァ~ン~♪

 蝿用だろうに人間である(筈の)善悪やコユキ迄うっかり惹き付けられそうになってしまう蠱惑的こわくてきな香りは、アルテミスを構成していた蝿達から冷静な判断力を奪い去った様であった。

 次々と粘毛に飛び込んでいく蝿達を美味しそうにムシャムシャと咀嚼そしゃくしながら溶かして吸収していくモウセンゴケ(化け物バージョン)の姿は、最早植物や苔類では無く、食欲だけが突出した終末期を感じさせる狂気そのものである。

 アヴァドンがニヤリとしながら言葉を発する。

「やはりな、僅かに三体か! アジ兄者は八体分身を出せると言うのに…… 情けない」

 元々アルテミスが居た場所には四体の十センチ程の大きな蝿が飛んでいるだけで、あの逞しいマッチョメンは消え失せていたのである。 

 四匹の蝿の中心をキープしていた、美しく輝く銀色の蝿から悔しそうな声が聞こえた。

「動物の扱いでは私の方が上なのに! い、いつの間に植物や苔類までっ! ひ、卑怯よ! アヴァドンの癖に!」

 アヴァドンは冷ややかに笑って告げた。

「幾千年経っても馬鹿な奴だ、その古代から使っている依り代が余程愚かなのだろうな、コユキ様! あの大きな銀のヤツが愚妹ぐまい、アルテミスお気に入りの旧世代の虫、シルバーティンバーフライです、どうぞ例のヤツ、サクッと行っておくんなましっ!」

「ヒっ!」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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