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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二部 四章 メダカの王様
740.バエルの守護(挿絵あり)

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

 驚いているナッキをそのままに、本物らしい殿様のゼブフォ・トノサマ二十四世は言葉を続けた。

「ふふふ、この者は我が影武者、幼き頃より共に暮らしたダルマだったのである! 本物の殿様たる我はさっきからずっと貴方を水中で、四方から余す事無く観察していたのだ! 陸上に集中して水中への注意が散漫になっている隙を突いて、あんな所もこんな場所も全部漏れなく全てこの目に収めていたのである! もうね、ナッキの事だったらスミからスミまで見てしまったのである! どう? 恥ずかしい?」

 ナッキはすかさず返す。

「あんな所やこんな…… うん、恥ずかしいよっ!」

「ははは、素直だな、ナッキ王は! これはお仕えするには好ましい事この上ない! ははははっ!」

「ん? 仕える? って何ぃ?」

 仕える、その言葉の意味がわかっていないっぽいナッキにゼブフォ、カエルの殿様は言った。

「ん? 仕える、そのままの意味であるが…… 『メダカの王様』、銀鮒のナッキよ、我と我の眷属は貴方に仕える、未来永劫に渡って、救世の主である貴方、ナッキの臣下たろうと今ここで決めちゃったんだよ? 緩めに言おうか? 王国に入れておくれ? だめぇ? って事なのである!」

「えっ? ええっ! ウチの王国にぃ? ま、マジでぇ?」

「マジだ!」

 ゼブフォの強固な意志を感じさせる言葉に、ナッキは他のカエルたちの顔を見回して聞く。

「殿様はああ言っているけど、君たちもそれで良いって言うのかい?」

「「「無論だ」」」

 声を合わせて頷くカジカ、ブル、アカネの賛同を、影武者だったダルマの言葉が補完した。

「殿様が決めた事なら我々臣下に否は無い、それに我等にも先祖から言い付かっている教えがあるのだよ、ナッキ王」

「教え? どんな?」

「それはね、遥か昔、我々カエルの先祖がこの池に移住する前に遡るんだけどね――――」

「ここから先は我から話そうじゃないか」

「殿様が?」

 ダルマに代わって語り出した、カエルの殿様、ゼブフォの話は遥か昔にまで遡る物であった。


 昔、カエルたちの先祖は、この池ではなく遥か遠い場所で幸せに暮らしていたそうだ。
 その場所は清らかな水と多様な生態系に恵まれた楽園のような場所であったらしい。
 
 カエルたちは多くの仲間たちと彼らを守護する強く優しい神のような存在と暮らしていたと言う。
 神の名はバエル、蜘蛛と猫、そしてカエルをこよなく愛する、賢い老人であったそうだ。

 やがて、神であるバエルは彼が仕えていた大いなる神、影の支配者ルキフゲ・ロフォカレと共に、更に上位の魔神王と共にどこかへ去ってしまったらしい。
 カエルたちは、在りし日のバエルから言い含まれていた通り、彼の仲間たちに連れられてこの池に移り住んだ、そう言い伝えられてきたそうだ。


「そしてバエル様は別れに際して我々カエルの先祖に告げたとも言い伝えられているんだ、『いつか大いなる存在がお前たちを迎えに現れたら、躊躇ためらう事無くその背を追うのだ』と…… そしてこうも言われたと伝わっている、『変化を恐れてはいけない』ともな…… まあ、わざわざ言い残さなくてもカエルが変化を恐れることなど有り得ない事なんだがな」

 そう言って殿様は少し笑った。
 ナッキは不思議そうな表情を浮かべて聞く。

「でも慣れ親しんだ場所から移るんだよ? 少し位は不安とか感じるのは普通だと思うけど…… そういうの、全然無いの?」

「ああ、我々はカエルだからな!」

 殿様の言葉に他のカエルたちも力強く頷いている。
 にしても中々哲学的な感じの言い方であった、俄然興味が湧くじゃないか。

 ナッキはキョトンとしながら更に聞いた。

「カエル、だから、なの?」

「ああ、カエルだからな! カエルは変える、なんちゃって♪」

 ……下らない駄洒落だったようだ、急激に興味が失われた。

「そ、そっか、んじゃあ、下の池に向かう準備をしようか? これ以上話していても時間の無駄だもんね…… よしっ! カエルさん達、これからよろしくね!」

『ははっ!』

「「「ちょっと待った、待ったぁー!」」」

 話がついてさあ準備と思った瞬間、揃った声が投げ掛けられた、闖入者ちんにゅうしゃのようだ。


拙作をお読み頂きまして誠にありがとうございました。

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