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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
252.ウトゥック

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 お昼寝タイムは一時間。

 今迄寝倒していたくせに、コユキ目覚めの第一声は次の通りであった。

「ふぁあぁ~、あんまりじっくり眠れなかったわねぇ~」

 顔面を超大盛ラーメンチャレンジの征服者、その栄誉でテッカテカに油せながら背伸びをしてダイニングに入って来たコユキに、リエは濃い目の緑茶を淹れて差し出しながら聞いた。

「んでんで、悪魔って! ねえ、ユキ姉! お見合い相手の人って、あ、悪魔だったの?」

 能力は兎も角、未だ本物の悪魔と相見えたあいまみえたのはオルクス(馬鹿)のヤギ頭しか経験無かったリエは興味津々の様子である。
 オルクスの弟妹きょうだいやアスタなら何度か会っているのだが、彼らはコユキと善悪のパーティーメンバーなのでまあカウント外であろう。

 因みちなみにコユキの格好は、車中でいつものツナギに着替え済みであり、一張羅の振袖は母ミチエが綺麗に片付けした後であった。
 コユキは胸のポッケからウトゥックの魔核、小指の爪の半分程の小さな赤い石を取り出して、ダイニングテーブルの上、リエの目の前に置いてから椅子に座り、気楽な口調で返事をするのであった。

「んだからね、前にも言ったと思うけど本人が悪魔って訳じゃないのよ、オルクス君ぐらいしか単体で顕現出来ないからね、んで人間や動物に取り憑いて『馬鹿』になるって事なんだけど、今回は、なんだっけ? ああ、丹波くんだったっけ? ちょっと選民思想ってか、プライドの持ち方を間違っててね、お金とか学歴とか職業差別なんかが強いタイプでね、まあ、お金とかいっぱい持ってて気前も良さそうだったんだけどさ、なんか二万円とかぽんってくれるとか言ってたし、見た目も悪くなかったしね」

「えぇ~凄いじゃな~いぃ、だったらパソコ二号機ぃ? 買って貰えば良かったじゃ~ん?」

 リョウコも椅子に腰掛けてそう言ったが、コユキは首を振りながら答える。

「んなのダメに決まってるじゃない、初めて会った人だよ? 家族とかじゃなければそんなの頼める訳ないじゃないの!」

 リエが不思議そうな声を上げる。

「ユキ姉善悪ヨシオちゃんには頼みに行ったんだよね? それって善悪ちゃんは、その、家族って事? な、の?」

「そりゃそうよ、なにしろこちとら命懸けだからね、ましてやウチにはオルクス君とアスタっていうちょっと手の掛かる子達もいるじゃない? アタシ達が母親父親みたいなもんだから」

 リエとリョウコは驚いた表情を浮かべて視線を合わせるのであった。
 二人の行動に一切気が付かないままコユキは話し続けた。

「善悪って仕事は出来るし頼りになるし、それでいてご飯とか作ってくれてもメチャクチャ美味しいし、人間として完璧に近い存在だと思うのよね? 檀家さんから寄せられる信頼とかも半端じゃないのよ、なんだけど今日の丹波君みたいに他人を見下したりしないし常に努力を欠かさないのよね! 他の宗教にも寛容だし、勿論人間だから未熟な所とか弱い所もあるんだろうけど、それを認めて改善しようって強さも人一倍持ってんのよね! そういう風に自分に限界を作らない善悪みたいな人間だったらこの子『ウトゥック』が入り込む隙だって無いだろうなって、当たり前の様に思えちゃうわん!」

 いいながら改めて『ウトゥック』の魔核を指差すコユキに対して、リョウコとリエは意味ありげに頷いた後、さも珍しそうに赤い石に顔を近付けて目をキラキラさせている。

「ね、ユキ姉! これって話すのかな? 幸福寺のおちびちゃん達みたいに!」

「ふむ、どうだろうね? 格下っぽいからねぇ~、無理なんじゃない?」

『失礼ね、真なる聖女と元聖女候補のお二人さん』

「おわっ! 頭の中にこ、声が!」

「あれぇ~、ビックリぃ~!」

 コユキとリエ、リョウコ同時に頭の中に直接声が届いた様だ。
 ここは姉らしく、悪魔との付き合いに一日の長いちじつのちょうがあるコユキが代表して話し掛ける様だ。

「ふむ、知性は高いみたいだね、魔力が少ないからレッサー達みたいな感じかと思ったのよ、ゴメンね♪」

『なる、アタシ等ウトゥックは魔力は少ないからねー、しゃーないか、んでアタシはウトゥックのラビス、聖女様ん所のラマシュトゥの親友だよ』

「あらなにアンタ、ラマシュトゥのダチなのん、んじゃあの子に会いに来たとか? なのん?」

『いやいや、今回は仕事でね、『静寂せいじゃく秘匿ひとくって分かれ道を覆い隠す御方おんかた』からの伝言を持って来たの、あとちょっとした作業依頼を受けてね』

 ちょっと気になる言い方をするラビス、コユキはズバリ聞いちゃうのであった。

「伝言? ってか? その静けさと密やかさと覆いつくさとぉぅ、とか言う御方、だっけ? なんなの? そいつが言いたい事って?」

 ラビスは答えた。

『エットねぇ、『己の相棒から離れる事無く、常に一緒に進むのだ!! あらゆる妨害を打ち消し、バアルを現世うつしよに顕現せしめ、改めてわがほこらを訪ねよ!』だよ! 一言一句間違いなし!』

「ほう」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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