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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
637.豚に念仏、猫に経

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 時間が流れた、と言っても体感では二分か三分、そんな物であろう。

「アーアーアーアー、ん? 何? あっ! オンドレぇっ! 何、何なのよぉ! えっ? 終わった? ああ、そうなんだね、そうか……」

 オンドレ、虎大が優しく肩をポンポンしてくれた事で、耳を浮かべて閉じ、閉じては浮かべぇから復帰したコユキは言った。

「ありがとうオンドレ、でも流石に男の子よね! あの嘆きと無念の想念が溢れた声を聞いて尚、正常心を保っているなんて、ね…… 流石は男の人、野蛮、いいえ、頼もしい事この上ないわね」

 そう言ってジッと熱い濡れそぼった情熱溢れるコユキの視線から逃れる様にそっぽを向いたオンドレ、虎大は吐き捨てるように言うのである。

「いいえ、いいえっ、俺は姐さんと同様に耳を塞いでいただけですから! トシ子さんとかリエさんとかリョウコさん? がっ! 優しく俺を諭してくれてようやくっ! 自我を取り戻せたんですよ、姐さん! ですから俺をそんな気持ち悪い目で見ないで下さいよぉ、ってか、妹さん達、実年齢より若くて可愛かったり美しかったりしますよね? 俺、好きになっちゃいそうなんですが?」

 コユキはゴミを見る目で言う。

「あー、良いんじゃない? あのねオンドレぇ! リエの旦那は中南米のカルテルと騙し合いを楽しみつつ利潤最優先の謂わばリベルタ―よ? 戦士なのよ戦士ぃっ! 反してリョウコの旦那さんは国に尽くしつつも、破壊と再生をこの困難な時代の中で法の縛りを受けながらも実現しようとしている勇者なのよ、勇者っ! アンタ、そんな偉人達から嫁奪えると思っているのん? 馬っ鹿っねぇー、無理に決まってんじゃないのぉ…… んでも、でもね、二人の姉でいと愛おしい、とてつもなく愛らしい女性が余っているとか何とかぁ? どう? どうなの? おんどれぇー?」

 オンドレ、虎大はコユキを見ずに答える。

「ですよね…… 見目麗しい女性はいづれ逞しくも好ましい男性と愛を誓い合っている物ですよね…… 分かりました、姐さん、分別をわきまえますね、もう大丈夫ですっ! ありがとうございました」

 コユキは珍しく慌てている様だ。

「え? うん、確かにこの子達の話はそうなんだけどね、そう言うんじゃなくてさ、もう一人余っているじゃない? この子達が憧れて止まないボリュームマウンテンな美女がさ、気が付かない? んもう、鈍いんだからぁ! コユキ怒っちゃうぞっ! どう、どうなの? 虎大が気が付かないお鈍さんなら竜也はどうなのぉん? ほらほら、コユキが逃げちゃうぞぉ? 良いのおぉん?」

 竜也が言った。

「お姉さんは逃げるんですね、分かりました、ではさようなら、彼が帰って来たようです、少し黙っていて貰っても良いですかね? 大切な所なんで!」

「なっ?」

 虎大も重ねた。

「ちょっと姐さん気持ち悪いんで黙っていて下さいよっ! ふぅー、ついに対決の時、そう言う事だよな……」

「き、気持ち悪い? 気持ち悪いですってぇっ! オンドレとバックルの癖にぃっ! 生意気言ってんじゃないわよぉっ! しゃらくさいわねアンタらったらぁっ! む、ムカつくのよぉぅ!」

「コユキ様、なにやら激おこぷんぷん丸なご様子ですね、このアジ・ダハーカにお任せあれ! 何ですかね? ここにいる偽物と、初めて見たこの人間二人を排除すれば良いんですかね? だったら簡単ですよ、私、アジ・ダハーカにお任せ下さいませぇ」

「あっ! もう一人のアジ……」

 コユキの横に座っていたアジ・ダハーカがゆったりとした素振りで立ち上がって向き合いながら言葉を放つ。

「ご苦労だったな、我が分身よ、残念ながら貴様の役目は済んだのだ、大人しく消えてなくなるが良い」

 五メートルほど離れた場所に佇んでいたもう一匹のアジ・ダハーカが答える。

「ははは、我が戦っている間の警備、無関係な者たちを戦場に立ち入らせない為に産み出した見張り、所詮、端役の其方そなたが本体だと? これは面白い、傑作だぁー! 楽しかったからもう消えて良いぞ、この分身めがっ!」

「な、何おぉー! くぅっ、喰らえぃっ!」

「お、なんだっ! やるのか、この野郎っ!」

「やってやる、痛痛痛痛痛痛痛痛痛たたたたっ! くぅっ! この馬鹿っ! 喰らえ、こうだこうだ、こうこうこうこうっ!」

「やめれやめれぇー! 痛痛痛痛痛、おおおぉ! 本気で殴ったなぁ! んじゃあぁこうだぁーっ!」

 ポカスカポカスカポカスカポカスカ――――

 シヴァがコユキに言った。

「どうですか、コユキ様? 放っておいて先に進みませんかね? 下手すると二、三年続くんですよぉ、これ」

コユキは二匹のアジ・ダハーカ以外の面々に告げるのであった。

「んじゃ、皆ぁ、放っておいて先に行こうよ、待った無しなんだからね! おけい?」

『応っ!』

 そっくりなアジ・ダハーカがポカスカ殴り合っている脇をすり抜ける様に、コユキ達一行は先へと歩を進めたのである。


拙作をお読みいただきありがとうございました!


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