【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第二部 四章 メダカの王様
731.暁の弾丸
子供達が嬉しそうに潜り込んだのを笑顔で見守っていたナッキに対して感心した様な声が投げかけられた。
「大したものですね王様、この避難場所、メダカのお城でしたか? それに防水壕でしたよね? これらも全てメダカ達の為に王様、ナッキ様自ら考えてお作りになったんでしょう? 凄いですよ、我々は川から川への旅暮らしですが、こんな風な施設は初めて見ましたからね、感動ですよ!」
「いや、それ程でもぉ、あるかな? なんて冗談だけどね…… 僕自身前に嵐で大怪我してしまってぇ、ここに流れ着いた経験があってねぇ! それでここのメダカ達って小さいでしょ? だから何とかしなくちゃってね、考えてこれを作った、そう言う事なんですよぉ!」
このナッキの言葉を聞いた、旅の途中でこの暴風雨に見舞われ、偶然、小川経由でこの池に避難してきたハヤの旅団、『暁の弾丸』のリーダー、ピドは更に感心の度合いを強めていうのである。
「いやいや、これ程の嵐でこんな風に気さくな会話をした事なんて皆無ですよ、私的には? 貴方は優れた指導者ですよ! それは間違いありませんね! ところで、メダカ? ですか? この方々を率いている貴方の種族は思いっきり違いますよね? 失礼ですが、ナッキ様、貴方の種族は一体なんと言う魚なのでしょうか? 良ければ教えてくれませんか?」
ナッキはキョトンとした表情を浮かべてピドに答えた。
「えっ? 僕はどこにでも居る普通の銀鮒ですよ、多少小ぶりで鰭が大きいですけどね、まあ、何の変哲もない鮒ですよ」
ピドは少し目を見張って答えるのであった。
「ギンブナ、ですか…… そうなんです、ね? へぇ……」
「?」
『ナッキ様、お城も大丈夫みたいですし、そろそろお休み下さいませ! ピド様たちも、お疲れでしょうし……』
年配の十数匹が声を掛けてきた、流石は年長者、中々の気配りである。
ナッキもそう思ったのだろう。
首を傾げているメダカより少しだけ大きいハヤの群れのリーダー、ピドに笑顔で言う。
「念の為、今夜は僕が不寝番をするので、どうぞ皆さんは安心してお休み下さい! 何か有ったら起こしますので、あしからず、てへへ」
ピドは答えた。
「あ、ああ、ではお言葉に甘えさせていただきますね、メダカの王様、ナッキ様、真に有難う御座います」
『有難う御座います』
メダカ張りに声を揃えたハヤ達がナッキ謹製の深瀬に身を沈めたのを見て、一層満足そうな表情を浮かべたナッキは、この夜の不寝番を確りと勤め、嵐が去った朝に、被害が無かった事と自作の避難所が無事、耐え切れた事に格段の笑顔を浮かべたのであった。
ハヤたちはたっぷりと餌場で腹ごしらえをした後、太陽が真上から照らし始めた頃、丁寧な礼の言葉を残し、再び旅の空へと泳ぎ出したのである。
恐らく一夜限りの縁であるにも拘る事なく、無邪気で満面な笑顔を揃えて『マタネェー!』と鰭全部を振り捲って見送ったナッキと全メダカ達であったが、餌場にもなっている水の流入地点からジッと見つめ続けている、いくつもの怪しげな視線に、気が付く事は出来なかったのであった。
拙作をお読み頂きまして誠にありがとうございました。
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