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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
683.突破口

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 光影は隠そうともせずに苦悩を吐露する。

「ああ、切頂せっちょう二十面体、所謂いわゆるC60、フラーレンな事は判っているんだが…… 魔界のホームセンターで売っている物も同じなんだが、あっちはカリウムをドープしているんだが、こっちはバリウムでな、揃って超伝導なんだが、こちらは魔力も動かないし再充填も当然出来ないんだ…… まるで、中の魔力を守っている牢獄みたいな感じでな…… 意味がわからないよ、はあー」

 コユキはいつも通り素直な意見を言う。

「ちんぷんかんぷんだわ、出てくる言葉も聞き慣れないものばかりで秋沢明と話してるのかと錯覚しそうだったわよ? んまあ光影さんって専門なんだからガンバよ、ガンバ」

「あ、ああ、ありがとう頑張るよ、折角のお祝いなのに悪かったな、昭、悠亜、すまん」

「いいえ、とんでもないわよ、それどころか力になれなくて申し訳ありません」

「悠亜の言う通りですよ、僕達ってフィギュアの事以外てんで無知で…… 今の話でもエポパテのポリマー物性を改良するのに硫酸バリウムを使う事位しか思い付かなかった位なんですよ? ほら、水酸化バリウムを硫酸と化合して無毒な硫酸バリウムに中和するじゃないですか? あれでポリマーを改良して熱硬化樹脂として使うんですよね、あっ! すみません、関係の無い話を――――」

「そ・れ・だ……」

「えっ? 何です?」

 光影は結城昭に抱きついて興奮を隠そうともせずに叫んだのである。

「それだよっ、それっ! 濃硫酸ぶっ掛けてみるわっ! 結城、お前凄いよっ! 突破口だよ突破口!」

「ほう」

 抱擁を続ける自分と同い年の男性二人を見つめるコユキは、興味深そうに目を細めて呟いたが、この場は結城昭と悠亜の結婚式である、期待しているような腐った展開にはならないだろう。

 恥ずかしい自分の嫁を横目で見ながら、善悪は光影に声を掛けた。

「難しくて良く判らなかったでござるが、兎に角、結城氏のお手柄、本日第二回だったのでござろ? みっちゃん良かったねでござる♪ 結城氏、やるやるとは思っていたでござるが、まさかここまでエクセレントだったとは、感動したのでござるよ、ハレルヤ! でござるな、ハラショーハラショー!」

 善悪が絶賛した事で、腐りきった世界から呼び戻されたコユキが急速に冷静な表情を取り戻しながら言う。

「そうね、そうだわね、結城さん、光影さん、これからも仲間達全員と話し合って分かり合って困難を乗り越えて行って貰わなくっちゃ困っちまうわよ? いい? 待った無しなんだからね? 専門とか専門外とか言ってっちゃ駄目よ? 一人一人が自分を信じて行くしかないのよ? 分かる? これまで誰一人歩いていないし、やり直しも利かない日々を皆、手探りで歩いているんだからさっ! 今までよりも、もっと話そう、語り合おう! 笑われるかもとか、得意じゃないからとかで黙り込むより、笑われても、馬鹿にされても何か思ったんなら言わなきゃ駄目だよ? そうでしょぉ? 世界が滅んでから『あの時伝えていればこんな結果にはならなかった、かもな?』的なクソガキ発言なんて聞きたくないのよっ! どんどん話しなさいよっ! 口に出す事なんてゼロ円でしょぉー? 常に思った事を口に出しなさいよっ! 全員がそうしなかったら…… 滅亡するわよぉっ! 判ったぁ? ちゃんとしてよぉっ!」

「で、ござるね」

 コユキがえて善悪が短く肯定した呟きに、光影と結城夫妻は背筋を正して答えるのであった。

『りょっ!』


拙作をお読みいただきありがとうございました!

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