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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
212.大魔王 アスタロト ①

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 話を聞いて大人しくするどころか、三つの頭とドブネズミまで加わって非難の声を上げ捲るのであった。
 その多くは八百長だとか、片言のお前には任せられんだとか、説明責任を果たせーだとかの聞くに堪えないものばかりであった。

 仕舞いには、コユキと善悪に対して任命責任まで口にする始末。
 どこに用意していたのか、巻物みたいな紙に大きく『不当判決』と書いてこちらに見せている。
 『権力乱用』のシュプレヒコールが七つの口から騒々しく発せられ続ける中、コユキはモラクスに問い掛けた。

「んねえ、どうしよっか? これ、力尽くで黙らせようにも攻撃手段が無いのよね? 困ったわねぇ」

「そうですね…… うん、黙らせる良い方法が思い付きませんね……」

「アル、ヨ! 」

オルクスがいつに無く強い口調で言ったが、そうだった大嫌いとか言っていたな。

「あるの? 」

「ウン、カッテ、ニ、サヴァト、ヲ、カイシ、スレバ、アノ、ウルサイッ! クチ、ゴト、チリ、ダヨッ! 」(ニヤリ)

 オルクスの冗談には聞こえない、物騒な発言を聞いた元七大徳、現七大罪(未納得みなっとく)は口こそ閉じて静かになったが、こちらを睨みつけ忌々いまいましそうにしている。

「双方! 止めよ! 」

 無言で圧を掛け合っている彼我ひがの緊張を破るような、静かな然ししかし迫力の有る声が響いた。
 声のした方に目を向けたコユキは驚いて声を上げる。

「ウヒョォ──ッ! 格好良いわねアンタ! 見るからに悪魔だけどいい男じゃない! 美悪魔ね! うんそうよ、アンタこそ美悪魔だわ! 」

 人目もはばからず良い男の出現に目をハートマークにして近付いていくコユキの視線の先には、先程まで無人だった筈の玉座に座る人影が……

 フラフラと歩みを進めていたコユキの腕をガシリと掴んだ善悪は、

「なにやってるでござる! よく見て! 化け物でござるよ! 」

叫ぶのであった。

 しかしコユキは虚ろうつろな瞳のまま、善悪を振りほどいて前へと進み続けようとしている。

「ええい、仕方ないでござるっ! 」

ゴチンっ!

 善悪は左手に握った漆黒の念珠、『アンラ・マンユ』を使ってコユキの脳天に拳骨を落とすのであった。

「────つっ、ムキ────っ! 何すんのよ、善悪っ! 」

「正気に返すためでござるよ! ほら、見てみなってば、でござる 」

 善悪に切れかけたコユキであったが、慌てて釈明する善悪の指す方向に目を向けてギョっとして固まってしまった。
 玉座に着いていた筈の若々しく美しい人型の悪魔の姿はそこには無かった。

 代わりにコユキの目に映ったその姿は、胴体の黒紫を始点に両腕に向かってアッシュに変色していく不自然なグラデーションの上半身に、腰から下は海の様な紺碧こんぺきの青い鱗が艶かしくうねり続ける巨大な蛇の半身、大きな蝙蝠こうもりの如き二対四枚の翼を持った、羊の頭蓋骨を真っ青に染めた様な顔をした、お世辞にも美悪魔とは言えないだろう容姿をした、醜悪しゅうあくな悪魔の姿であった。

 青い骨の顔の左右にはムフロンの如き角が、上下反転されたように前方に向けて配置され、額の中ほどからはエランドの様な捻りねじりを持った尖角せんかくが二本並んで頭頂部の上方に向かって立っている。
 身に纏ったオーラはシヴァの物よりも鮮やかな紫色であったが、不思議な事に激しく明滅を繰り返していた。

「なによ、あれ! 化け物じゃないの! 」

 慌てて善悪の後ろに隠れながらコユキが今更ながら言ったが、近寄ってきたスプラタ・マンユが二人を庇うように立ち並び、その中の一人モラクスが溜め息と共に答える。

「言ったではないですか、魅了チャームを使うと…… しかし、正気に戻られて良かったです、一旦下がりましょう」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!



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