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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
319.弾喰らい

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 遠くから何か声が聞こえた、これってワンちゃんの声じゃないかな? そう思った時、コユキにはハッキリ聞こえてきたのであった。

「ガアアアァァァァ! グガアァ!」

「キャイーン、キャンキャン! キャゥィ~ンゥゥ! ギャンギャンギャン、クゥゥ~ンゥゥゥ!」

 明らかに犬の物ではない重低音の吠え声に続いて、恐らく敗北し逃走中であろう甲高い声は悲鳴のように聞こえた、こちらがくだんの野犬の物であろう。

「っ! なんか更にヤバそうなヤツが来ちゃったっぽいじゃないの? カイムちゃん逃げよっか?」

「ん~、だけど敵意は感じないんだよキョロ? たぶん味方なんじゃないかな、キョロロンっ!」

ガサガサガサ!

 話していると近くの茂みが大きく揺れ動き、巨大な獣が姿を現すのであった。
 獣はコユキとカイムが野犬の襲撃から避難していた杉の根元まで歩みを進め、後ろ足で器用に立ち上がって枝に腰掛けて両足をブランブランさせていた二人を見上げるのであった。

「あれ? あいつって確か、『弾喰らい』よね?」

 コユキの言葉通り、眼下にたたずんで樹上を見上げていたのは、以前富士山中で『聖女と愉快な仲間たち』と不意の遭遇戦を繰り広げた凶熊きょうぐま、種の限界を超えて巨大化した脅威の三メートル越えを果たした、奇跡の月の輪熊であった。

 巨大化した理由は規制前の鉛の散弾をその身に受けた事で、脳下垂体のうかすいたい前葉ぜんよう辺りに何らかの影響を及ぼした、位のフワッとした感じで理解して頂ければ良いと思う。

「ガウ、ガウガウ、ガウ?」

「ん、何か言ってるわね? カイムちゃん」

「ええ、『おい、付いて来いよ、おけい?』とか言ってるよ、キョロロン」

「う~ん」

コユキは腕を組んで小首を傾げながら改めて自分たちを見上げている『弾喰らい』の瞳をジッと見つめるのであった、美しく澄んだ瞳であった。

ストンッ

次の瞬間枝から身を躍らせて降り立ったコユキに続いて飛び降りてきたカイムはコユキの頭上から声を掛けるのであった。

「それで何処どこに連れて行くの? 熊さん」

「ちょっとカイムちゃんキョロロン忘れてるわよ」

「おっと! キョロロン」

「んじゃ連れて行ってよ、折角だから乗せて行ってね♪」

「ガウガウガウガウ、ガウガウガウ……」

「カイムちゃん何だって?」

「うん、『分かったから頭から降りろ、背中に乗れ……』だそうです。 あ、キョロロン!」

「なるほど」

 納得したコユキとカイムを背に乗せて、山の奥へと歩いて行く『弾喰らい』であった。

 深山を進んで行くと周囲の空気が一変した事に気付いたコユキは小さく呟くのであった。

「入ったわね」

 その言葉を証明するかのように、大きく開けた場所に到着した熊は歩みを止め、その背から降りたコユキの目の前には山の奥には凡そおよそ似合わないだろう、丁寧に盛り作られた土俵が現れていたのである。
 土俵の後ろ、向正面むこうじょうめんの木立の上には神棚が設えられており、金の一字が大きく書かれた派手な腹掛けが、ご神体宜しく鎮座しているのであった。

「これね」

 コユキはカイムを伴って神棚の真下に移動すると大きく腹肉を揺らして大ジャンプ、腹掛けに手を伸ばし今まさに掴み取ろうとして、墜落してしまうのであった。

 墜落の原因は、何処からとも無く現れたニホンジカ数頭が立派な角をコユキの足に引っ掛けて、無理やり引き下ろしたせいである。

ボヨンっ!

 その身を覆った潤沢過ぎる贅肉で地面をバウンドして立ったコユキは鋭い目つきで見回しながら言う。

「なによアンタ等! アタシはこの腹掛け貰いにきたのよ! 何か文句でもあるわけ?」

 コユキを取り囲んでいたのは弾喰らいと牡鹿おじか達だけでなく、子供やめすの鹿達、弾喰らいと同じ位でかい月の輪熊、ニホンザルや狐、狸、可愛らしいヤマネやリス、ウサギ、様々な野鳥達が集まっていたのであった。

 揃って鉛弾を喰らったとでも言うのか? サイズ感があからさまにおかしい……
 ニホンザルなんかコユキの胸位まである、因みにコユキの身長は百七十センチを優に超えているのだが……
 ヤマネもサッパリ目のヌートリアみたいであった。
 中々に恐い……

 その証左と言う訳ではないが、怖気づいたのであろう、カイムはいつのまにか巨大動物達の包囲からソっと姿を消していたのであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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