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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
453.茶糖家防衛戦 ②

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 同じ頃、家の中では家長であるヒロフミと、伴侶であり皆から愛される明るく優しいお母さんであるミチエが焦り捲る姿があった。

 このままでは間に合わないかもしれない! そんな思いが一層焦りを生じさせ、いつも通りの手際を阻害し続けていたのである。

「お父さん! それとって、ねえ、早くこっちに寄こしてよ!」

「それって? 固有名詞で言えよ! 分っかんねぇよ! お、おい、それ取ってくれよ! それそれ!」

「は? お前こそ固有名詞で言えよっ! はあぁ、使えねえぇ無あぁ~! やっぱ、ヒキ気味の奴って、使えねぇ~、マジ使えねぇ~」

「な! なに? なんなのぉ~! ヒロフミショックっ! 超ショックぅ~!」

 固有名詞って言うか、主語が圧倒的に不足してるんじゃないかな?

 流石はコユキ、リョウコ、リエの両親である、コミュ力が圧倒的に不足している様であった、DNAの螺旋を感じた、まあ、良かった。

 大騒ぎであったが、こちらの準備もドタバタながらも、ゆっくりと進んでいるようである。


 敵の姿を最初に捕らえたのは、やる気満々だったリエでは無く、一番の高台(柿の巨木の上)に陣取っていたリョウコでもなく、先々代の『真なる聖女』、一階の屋根の上で酔いどれていたツミコであった。

 流石は本物の聖女の迫力を感じさせる一声が開戦の合図となったのであった。

「来たよ! 小娘たちぃ! ちゃんと付いて来なさいよぅ! 『機械支配マシーンドミニオン』! 頼むよっ! 機械わがこたちぃ!」

 その声に応えて一斉に動き出す茶農家ならではの鉄器達、刈り払い機、茶刈り機、剪定鋏、チェーンソーの群れ、そしてツミコの愛車、ハンビーと言った方がしっくりくる軍用車、ハマーの唸りが重低音のハーモニーを奏でつつ一斉に動き出したのであった。

 空から襲い掛かる鷹と鷲を依り代にした悪魔達を迎撃する、ラジコンヘリとドローンもまるで自我を持っているかの様な動作で滑らかに蠢き狙いをあやまたずそれぞれその身を戦いの空へと投じていく。

 これこそが、世界を股にかけて戦い続けて来た『機械の支配者』たるツミコの技、いや性格破綻者のツミコだけが辿り着けた究極の戦闘手段、完全自律式の殺戮マシーンによる蹂躙、その真骨頂であったのだ。

 コントロールしている機械以外の鉄器までもが、プルプルと躍動している、具体的にはヒロフミが手にしていた菜切り包丁までが、意識を持っているかのように蠢き捲っていたのである。

 ヒロフミが叫んだ。

「ちょっとぉ! お母さん、包丁が動いちゃうんだけど、これ! どうすれば良いんだよぉ!」

 ミチエが答えて言う。

「煩いわよ! 自分で何とかしなさいよ! 本当に、ヒッキーとか、使えねぇなぁ~!」 

 仲良さそうで結構な事である。


 ジワジワと近付いてきた敵、悪魔達の姿を捉えた機械達が凶悪な刃や車体を使おうとした直前ツミコの声が響く。

「だ、駄目だ! エンジン停止ぃ! 緊急停止だよぉ! 殺っちゃあ駄目だよぉ!」

 ツミコの声に合わせて動作を停止した機械達は言いつけ通りエンジンすら切ってしまうのであった。

 リエが慌てて聞く。

「な、なんで叔母さん? どうして?」

 屋根の上から飛び降り、リエやリョウコがいる庭へと着地したツミコは裏庭に陣取っているリョウコやカルキノス、フンババにも聞こえるよう声を大きくして言うのであった。

「作戦変更だよ! 殺しちゃいけない、捕まえるんだよ! いいかい、絶対殺しちゃいけないよ!」

 何故だ! 殺すことに比べて生きたまま捕獲する方が難易度が一気に爆上がりすると言うのに……

 そう思っていたツミコ以外の面々は、姿を現した悪魔達を見て一目で納得の頷きをしたのである。

 悪魔達はどこか見覚えのある動物達を依り代にしていたのだが、その姿は静岡県民ならば、特に中部地区に住まう者であればお馴染みのメンツだったのである。

 県庁所在地の小高い丘の入り口に建つ県民憩いの地、動物園。

 そこに住んでいるはずの動物たちを依り代にしている事がはっきりと見て取れたのである。

 動物園の動物なんて見分け付かないだろうって、娯楽の少ない地方暮らしをナメちゃあいけない、ましてや多い年だと十回は動物を愛でに訪れている新米ママ二人も含まれているのである、個体毎の僅かな違い位見分ける事などお茶の子さいさいなのである。 ※お茶農家だけに。

 その証拠にリエの驚きの声は以下の通りだった。

「あの虎っぽい悪魔の模様…… ま、まさか、フジ♂なの? そ、それに隣にいるのは、ノゾミ♀じゃない!」

 リョウコも同様に叫ぶ。

「ホッキョクグマのはロッシー♂とバニラ♀、ライオンもムール♀と去年仲間入りしたばかりのギル♂だよぉ!」

 ツミコが慎重に構えながら二人に告げる。

「あっちのアビシニアコロブスはロン♂とピン♂だね、それに向こうにはアフリカタテガミヤマアラシのシューマイ♀とモップ♂迄、くっ、やっぱり殺す訳にはいかないようだね」

 お前もかよ……

 独り者で子供もいないと言うのに、見分けが付くほど通っているとは、感心するより絵面を想像したら悲しくなって来ちゃうじゃないか。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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