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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
405.テルール ②

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

――――これって…… ううん、ただの模型、玩具たちの行進じゃないっ! そうよ気にする方が可笑しいわよね、お人形さん遊びに過ぎないわ…… 一応、聞いてみるか

「ねぇアスタ、このお人形さんたちを上手に動かせるって能力だったのね? あのコントローラーって! 善悪のお人形遊び用だったのねぇ! やんなっちゃうわぁー、くたびれ損じゃなーい! ね?」

 アスタロトはいつも通りゆったりと笑いながら答える。

「そうだな、只のお人形遊びだなぁ、でも良いんじゃないかな? こんなのも」

「え、どうして?」

 アスタロトは顔つきを氷点下、それこそ絶対零度っぽく一変させて言うのであった。

「だって、千里の天神さんで手に入れたじゃないか、あの巨大化できる小槌を、さ…… この軍団を人知れず配備して、十分位とは言え持ちうる火力の全てを叩き込んでやれば、必中離脱でさ…… こんな国位、楽勝じゃないか…… だろ? くふふふ」

――――ダメだ狂っている…… アタシがこの狂気を止めるしかないようね…… よし! まずはアスタとお婆ちゃんをぶっ飛ばして見るか? やるしかない

 そうコユキが思った時トシ子が大きな声で叫ぶのであった。

「革命は成し遂げられた、かつて王国のつるぎと呼ばれたコウフク卿は、いまや我らを導く共和国の剣となったのである!」

――――ん?

 アスタロトがトシ子を見つめながら立ち上がった。

「まだだ、トシ子よ! 確かに革命は果たされつつはある、だが最後にして最大の粛清がいまだ為されていないのではないか! 後一人、一人の首を斬り落とすことで真実、革命は完了するのであるっ!」

「それは一体…… 教えてダーリン、その悪人の名を!」

 請われたアスタロトはトシ子では無く、コントローラーを握って軍事パレードを続けさせながらも、緊張した視線をこちらに向けている善悪を見つめて言葉を続けるのであった。

「我らのつるぎコウフク卿、いいや善悪よ…… お前が私邸の奥に秘匿しているあの毒婦、ベナルリア王族の最後の生き残り、マーガレッタ王女の処刑を経ずして我々の革命は終りを迎えることは無いっ!」

 ザワザワザワザワっ!

 ここまで歓声を上げていた聴衆(編みぐるみ)がざわつき出して、疑問の視線を彼らの中央に立つ善悪に対して向けている。

 ざわめきはやがて一つの声に集約されて行き、程なくして統一された大合唱となって響き渡るのであった。

「「「「「王女をギロチンに! 王女をギロチンに! 王女を――――」」」」」

「ダメだぁぁぁぁーっ! 彼女を、マーガレッタを害する事は許さないぃっ! 何故ならばこの私は民衆よりもこの祖国よりも長く思い描いた理想よりも、只々マーガレッタを愛しているのだからっ!」

 シ――――ン…………

 善悪の叫びによって水を打ったように静まり返った境内のそこかしこから新たな声が生まれるのであった。

「私欲だ…… こんな俗物が最高存在であろう筈もない…… 暴君を倒せ! 暗幕を引き千切れえぇぇぇぇー!」

 その声を合図に編みぐるみ達は一斉に善悪に飛び掛かり、あっという間に善悪を覆い隠してしまい同時に兵隊たちも元の模型に戻ってしまった。

「ぜ、善悪!」

 突然の出来事にコユキが驚きの声を上げた直後、クロシロチロの三匹が声を揃えて話し出すのであった。

「「「こうして革命の立役者の一人、ゼンアク・マクシミリアン・コウフクは民衆の手によって処刑されたのです。 かつて王国を魔王ザトゥヴィロの手から救い、民衆の支持によって最高存在へと駆け上がった彼にとっては皮肉な最後でした。 更に、彼が命を張って守ろうとしたマーガレッタ姫は彼の私邸で自ら命を絶ち、一人残された赤ん坊は親切な夫婦の手によって育てられ、蘇ったザトゥヴィロとの宿命の戦いに赴くのですが、それはまだ先のお話」」」

 ここでイラとルクスリアが青筋をたて歯を食いしばって力を振り絞り、巨漢のグラを抱き上げて庫裏くりから姿を現した、グラは馬鹿でかいおくるみに包まれながら大声で言った。

「おぎゃあ!」

 コユキは思った、なんだこれ? と。

 思っていると善悪が編みぐるみの中から起き上がりコユキに向かって歩み寄りながら笑顔で言った。

「どうだったでござるか? コユキ殿の言葉に合わせてエンディング迄やってみたのでござるが、感想は?」

「エンディング? アタシの言葉って…… そもそも今の何だったのよ! 説明してよ!」

「へ? 何って師匠、トシ子殿に頼まれて練習していたオリジナル演劇『王国の剣冒険譚 ~革命編~』でござる! 今度老人会でやるのでござるが、聞いてないの誰かから?」

「中々の出来じゃったろうが、のう、やっぱり軍隊が行進するっちゅう善悪のアイディアがぴったりじゃったのう」

「我も良いと思ったなあ、フランス革命と善悪のオリジナルストーリーの融合がこれ程しっくりくるとはなあ~」

 目を剥いて黙り込むコユキの前に近づいてきたアスタロトとトシ子が善悪と並んで三人がっしりと肩を組み顔を寄せて聞いて来る。

「「「どう? 面白かった?」」」

 どごんっ! バタンバタンバタンバタン ゴロゴロゴロゴロ ドガッ!

 半泣きのコユキが無呼吸でフライングボディアタックを三人に繰り出し、肩を組んだままバレル横転をした後転がった三人は幸福寺の白壁に激突し意識を刈り取られながら停止するのであった。

 コユキはぷいっとそっぽを向きながら呟いた。

「んもう、ホウレンソウ、よ、全く…… にしてもグラは完全にキャスティングミスでしょうが!」

 尤ももっともであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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