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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
273.土蔵 ① (挿絵あり)

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 幸福寺の奥方、閉じられた宝物庫とも言うべき、半地下の土蔵に向かう善悪と元夫婦、内心でラブラブなルクスリアとイラを見送ったコユキ始め感の良いメンバーの瞳は、嫌らしくニタニタしていたのであるのは些かいささか残念な下種ゲスっぽい感じであった、残念至極。


「あ、痛い!」

「おいっ、気を付けろよ! 怪我したりしたら、その、善悪様やコユキ様に迷惑掛けてしまうだろう? ……おい、痛くないか? 赤くなってんじゃないか! 全くお前は、ドジだなぁ」

「えっ? ありがと…… でも、大丈夫だよ…… 痛くないし…… でも、相変わらず優しいのね、変わんないのね♪ うふふふ」

 薄暗い土蔵に入って程無く、雑多な収容物の一つにぶつかってしまったルクスリアを心配する、元夫のイラ、幸福寺にやってきて半年が経ち、最近漸くようやく昔の感じに戻って来た二人に善悪が声を掛ける。

「では、二人はこの入り口周辺の箱を調べて欲しいのでござる、目印としては箱の上部にそれらしい表題が書いてあるので、分かるであろ? んじゃ、よろしく~」

そう言って自分はどんどん奥へと入って行ってしまうのであった。

――――ふふふ、実は吉備津彦命キビツヒコノミコトのアーティファクトの在り処はとっくに承知でござる、二人きりで作業する事で旧交を更に燃え上がらせてあげるでござるよ、このキューピッド善悪がね!

 そうして、踏み込んだ蔵の最奥、巻物や古文書などが整理されて並べられている古めかしい棚から、一つの文箱ふばこを選び、手に取るのであった。
 その箱の上には、達筆な文字で『昼夜チュウヤ』と書かれた和紙が貼り付けてある。
 善悪は大きな音を立てないようにソウッと蓋を外し、中を確認するのであった。

 小さな、けれど豪奢ごうしゃな金糸銀糸を使って可愛らしい桃の図柄が精緻せいちに描かれている茶巾袋の横には、古惚けた四枚の小さな巻紙が添えられていた。

 実の所、善悪がこの箱を見つけて、耐え難い興味を抱き、毎日放課後になるとこの蔵に入り浸って巻紙や添えられた物品を注目しきりだったのは、三十年ほど前に遡る。

 当時、お寺の息子というだけの理不尽極まりない理由で、今で言うといじめとも呼べる扱いを同級生達から受けていた少年善悪は、一人遊び、特にファンタジーの如き空想世界に思いを馳せ、剣と魔法、数々の伝説、竜や魔王と戦う勇者達、人智を超えたスピリチュアルな存在に、まだ未熟な少年の瞳を輝かせていた、いや、それだけが救いや希望であったのかもしれない。

 お家の手伝いでこの蔵の掃除をしている時に偶然見つけたのが、パパン清濁キヨオミの弟、昼夜叔父さんの名が記された文箱であった。
 物心ついていたとしても、記憶があやふやな三歳の時に事故で亡くなった叔父の残した物に、幼かった善悪は興味を抑えることは出来ずこの茶巾袋や巻紙に見入ったのであった。

 四枚の巻紙に書かれていたものは『絵』であった。

 流石は桃太郎のモデルと言われる第七代考霊こうれい天皇の皇子である、四道しどう将軍の吉備津彦命の遺物に添えられていた絵と言えるだろう。
 その内一枚は『日本一』の旗を誇らしげに掲げた美丈夫と、彼の周りに傅くかしずく三人の将軍の絵。
 三人の姿の横には、『犬養いぬかいの臣』『猿女君さるめのきみの臣』『鳥飼辺とりかいべの臣』の文字が見られ、三人の絵姿も力溢れる猛将のそれであった。

 問題は残りの三枚の巻紙に書かれた絵姿であった。

 そこに描かれていたのは、二足歩行で佇む青いたてがみたたえた灰色の人狼、毒蛇の尻尾を持ちネコ科の猛獣さながらの胴体に狂った猿の顔をした雷光をまとう化け物、美しい女性の顔に凶暴な鉤爪かぎづめを持つ炎に包まれた巨大な怪鳥、まんま、怪獣図鑑のような三枚の絵に、子供だった善悪は首を傾げていたのであった、んが! 半年前、アスタロトの居城ボシェット城の最上階で見た魔獣が善悪の遠い記憶にアクセスしたのであった。

 スプラタマンユの三兄、パズスの可愛がっていたオルトロスのチロと、お隣とその又お隣に飼われていた魔狼、ケルベロスのクロ、フェンリルのシロ、三体が合体した『大口の真神おおぐちのまかみ口白クチシロの姿が、まんまこの巻紙に描かれた『犬養いぬかい』さんの見た目そっくりであったからである、そりゃもうビックリ仰天であった。

 それ以来、三十年ぶりにこの叔父さん『昼夜』が残した聖遺物の文箱を何度も開いて来たのである。

 この時点で善悪は知る由もないが、ネタバレを突っ込んでしまう自分勝手な観察者、私であった。
 化け物と善悪に称された猿顔の悪魔は『フンババ』、怪鳥と呼ばれた女型の悪魔は『カルラ』であり、『口白』である神狼は『ラー』。

 三柱揃うのはこれより二年後……
 無敵の魔獣として『聖女と愉快な仲間たち』最強にして最凶と呼ばれた手加減知らずの凶悪な魔王達である。

 今回の私の観察対象ではないからどんどん言ってしまう、我が儘わがままな私、観察者なのである、いひひひ。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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