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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二部 四章 メダカの王様
734.上の池(挿絵あり)

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 ここは上の池、その中央から少し東に寄った深瀬の中央、カーサ曰く評議会議場、その只中であった。
 キリキリとした神経質そうな声が響いた、カーサと同じ評議会メンバー、サムの物である。

「議会の決、所か相談も無く、個人外交に及んだ上に他国の首脳を独断で帯同する等、いまだかつてこれほど手順と常識から逸脱した事などあったでしょうか? いいや無いっ! 議員カーサの今回の行動、いいや暴挙は決して看過する事ができませんぞっ! 私はここに、カーサ議員の越権行為と議会侮辱を糾弾し、彼を評議会から永久に追放する事、これを提案いたします、いいやっ! 要求致します!」

 ザワッ……

 議場に集まった評議員と、発言権こそ無い物の議決投票権を持つ参議、合わせて三十匹ほどのモロコがざわめきを漏らす中、カーサはサムに向かって堂々とした口調で言い返す。

「確かに私はこの池のルール、いいや、モロコが長い間守り続けたおきてから逸脱した行為を取ってしまった、それは認めよう…… 一部の声に、いや、はっきり言おうっ! 私の支持者数名から、私が下の池へ流れ着いたのは事故、増水の流れによる不可抗力である、そう言う届出が為されている事も承知の上だ…… だが、しかし、私は敢えて言うっ! それらの届出は嘘であるっ! 私は自らの意思で、下の池へと向かったのだっ! 掟破りは百も承知、しかしっ、それしかないと思い至った結果の行動であったっ! 全ては愛して止まぬモロコの未来、これから生まれる子供達の為、そのための掟破りだったのだっ!」

 パチパチパチパチ……

 カーサの言葉には拍手が起こった、サムに比べれば随分人気がある様であった、あくまでも両者の対比ではあるが……
 サムはと言えば、苦々しげな表情を浮かべてそっぽを向いており、彼の支持者だろう数匹のモロコが慌てて近くに泳ぎ進んでいた。

 この評議会の議長なのだろうか、年配っぽいモロコが面倒臭そうに、しかし分別を表情に浮かべて言う。

「えーおっほん! カーサもサムも少し抑えるようにっ! 兎に角、この場には下の池の国家元首である『メダカの王様』ナッキ殿が居られるのだ…… 国内の事、国法はこの際二の次として、既に外交問題に発展してしまった事態の収束を一番に考える事が賢明、いや、礼儀であろうと思う、違うかな? カーサ、サム?」

 カーサは力強い頷きを返して返答とし、サムは周囲にはっきりと聞こえる位に『フンッ』と鼻を鳴らして更にそっぽを向いている。

 議長のモロコは、やや深めの溜息を吐いた後で、ナッキに向かって言った。

「さて、下の池の元首、『メダカの王様』ナッキ殿、今回ご訪問頂けた事は大変光栄に存ずるのでございますが…… 今も聞いて頂いた通り、我々、上の池の、正当な支配者、モロコ評議会の意図していなかった出来事、あくまでも一部の意思が勝手に行動した、何と言うか…… イレギュラーな事なので御座いまして…… こんな事を申し上げる事は、はなはだ心苦しいのですがぁ、えっとぉ、ナッキ様、貴方様はこの上の池に来て、一体何を為す事をご希望されているのでしょうか?」

 天然自然の物でなく、随分古い時代に何者かの手によって作り上げられたであろう、深瀬の内側に施された、見事な壁面の彫刻に気を取られていたナッキは、少し慌てて議長の問い掛けに答えた。

「希望? うーん、希望かぁ? と言うか君たちの卵が孵化する前に殺され、はっきり言うと食べられちゃってるんでしょ? カーサ君からはそれを何とかして欲しいって言われてるけどねぇ…… 皆も嫌でしょ? 悪魔達がそんな酷い事してるんだったら、僕が何か出来てさ、酷い事を止めさせられるなら頑張ってみようかなぁ、そんな感じでジャンプ一番っ! ここまで来たんだけどねぇ、逆に聞きたいんだけどさぁ…… 僕って何をすれば良いの? 判りやすく言ってよ!」

 ザワザワザワッ……

 判り易くやるべきことを言って欲しい…… 円熟した共和制の社会にいて、これ程悩ましい言葉は存在しない事だろう。

 取捨選択、それより数段濁した発言に満ち溢れた議論、『もしこうなったらどうするんですかぁ?』、『極端な方向性を模索するのは議員個人の野心の顕れでは?』、『バランス感覚に重きを置きましょうよっ!』、『取り敢えず、過去の例を踏襲した上でですねぇ……』、こんな言葉しか出ないのである。

 でなければ人間の社会に於いても、グラックスが注目される事もなかっただろうし、シーザーが帝位に着く事など無かっただろうしね。
 『責任取って頂けるのでしょうかぁ?』ってやつである。

 この場にいる全てのモロコがナッキの問いに答えられない中、カーサが大きな声で言うのであった。

「そうなのですっ! ナッキ様、貴方は今仰いましたね! 何をすれば良いか、と仰った筈ですっ! これから何かをする、そんな気遣いはいらないのですよっ! アナタが今ここに居てくれる、これだけで充分なので御座います! 私、モロコの招きに応じて、貴方様がここ、評議会を訪れた事実、これこそが十二分の意味を持っているのですよぉ!」

 ナッキはハテナ顔だ。

「ん? それって、えっと、どう言う?」

 カーサは我が意を得たり、そんな表情を浮かべて答える。

「貴方がここにいる、その事が『抑止力』その物なのですぅ!」

「よ、抑止力ぅ? って、何?」


拙作をお読み頂きまして誠にありがとうございました。

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