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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
167.ツミコの罪

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

 今回の話には、
 『23.戦闘訓練 (挿絵あり)』と、
 『148.幸福光影(コウフクミツカゲ)』
 『149.カーリー』の内容が関わっています。
 読み返して頂くとより解り易く、楽しんで頂けると思います。
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 ナターシャは続けて話してくれた。

 数年後、ツミコの後釜に『スプンタ・マンユ』が選んだのはスウェーデンの聖女、アリシアであった。
 彼女は『真なる聖女』になるとすぐに、自らのパートナー、ラーシュと共に、魔界へ向かっていったという、無論、『カーリー』を追ってである。
 国も近く、親しく連絡を取り合っていたナターシャにのみ告げて旅立った二人は、その後戻ってくる事は無かった。

 以降、新たな『真なる聖女』が現れる事は無く、アンラ・マンユに続いてスプンタ・マンユをも失った事に危機感を覚えた、世界中の聖女&聖戦士達は積極的に連絡を取り合い、コロナ禍の最近は、リモート会議などを行っていたのであった、が、引き篭もっていたコユキは知るよしも無かったのであった。

「そう言えば、高一の頃、叔母さんがかぎ棒をくれて、気が付いたら二本に増えていたっけ……」

コユキの言葉に善悪も続けた。

「うん、子供の頃にアフラ・マズダを持って来てくれた時のツミコさん悲しそうな顔をしていたでござる…… ん? 高校の時アンラ・マンユを爺ちゃんから貰った日にもツミコさん来ていたでござるよ? あれれ? 」

「ふむ、そうだね…… あれかな? おばさん聖女をアタシに譲るまで一人っきりで、その黒い念珠、アンラ・マンユを探し続けて、見つけた後善悪の所に持って行ったんじゃないの? ああ見えて諦めが悪くて頑固なところあるのよね、あの嫁かず後家いかずごけ

その言葉を受けて、ナターシャが補足を加えてくれた。

「そうでしょうねヴィチ、アンラ・マンユの力を使ってカーリーだけ封印すれば、彼の魂を解放してあげられるって考えたのよ、きっとウォッカ」

「やっぱり! 」

 うん、善悪は記憶も曖昧だし、あまり分かっていない様子だが、コユキとナターシャは大体正解だ。
 気になったので時間を巻き戻して観察してみたが、それなり処か、メチャクチャ重い話であった。

 コユキや善悪、善悪の従兄弟の光影もだが、三歳になる年に、ツミコのパートナーであり光影の父だった前任の聖戦士はカーリーに敗北した。

 ツミコは顕現したカーリーを単独で追い詰め、結果的に情にほだされ見逃してしまったが、パートナーの形見である白銀の念珠、『アフラ・マズダ』だけはしっかり取り返し、それを持って幸福寺を訪れ、善悪に渡すとそのまま旅立ったのであった。

 失われて久しい、数百年以上経過していた伝説の神器、封印の力を持つ漆黒の『アンラ・マンユ』を探して、伝承や噂だけを頼りに世界中を愛車のアマゾネスで駆け回った。
 旅先で魔界に潜る事、数十回を経て、漆黒の神器『アンラ・マンユ』を隠し持つ高位悪魔に辛勝しんしょうした時は、旅立ってから十二年の年月が過ぎ去っていた。

 慣れぬ国々を一人当ても無く彷徨うさまよう日々の生活と、悪魔たちとの終わる事無き戦いを経て、この時のツミコは既に聖女を続けられる体では無くなっていた。

 具体的には、十二年間続けてきた砂糖ざらざらと油ゴクゴク、加えて、心の弱さから来る過度の飲酒によって、消化器系統に少なくないダメージを負っていたのである。
 最早、脂肪を維持する事は絶望だったのだ。

 そうして実家に帰ってきたツミコは、自分の手元に残った一本切りのアイスピックを、かぎ棒にしてコユキに渡すとさっさと引退する事に決めた。
 そして、厄介払いでもするかのように幸福寺を訪れ、善悪グランパに『アンラ・マンユ』を押し付けて今日まで楽隠居を続けているのである。

 如何いかにかつての『真なる聖女』であっても、十二年に及ぶ苦しい旅と、アルコールの中毒性には勝てなかったのであった。

「あ、あの……」

コユキが頷いていると、ツナギの裾を引っ張りながらシヴァが弱々しく話しかけてきた。

「ん? どうしたの? シヴァ君? 」

「なんか、御迷惑を掛けたようで申し訳ないです、うちのが……」

「ウチノ? えっと、シヴァ君となんか関係あったっけ? 今の話? 」

コユキの疑問に、ますますバツが悪そうにしながら、シヴァが答えた。

「あー、すんません…… 実は…… 女房なんですよ、俺の…… 『カーリー』って……」

聞いた瞬間にコユキの纏うまとうムードが一気に剣呑けんのんなものに変化した。

「ふーん、シヴァ君って結婚してるんだー、中二病のくせに…… リア充なのかー、爆ぜ────」

「ね、ねえコユキ! その動いて話すお人形って、一体なんなの? 」

爆ざす直前に、喰い気味に話しに割り込んできたキャシーの声に仕方なく答えるコユキ。

「何って、ウチのパーティーメンバーよ、スプラタ・マンユって悪魔たちよ! 何? 皆にはこういう子達とかいないの? 」

「いないわよ! ってか、さっきそっちの子がカーリーが奥さんて言ってた様な……」

「らしいわね、プンプンよ! シヴァ君の癖に! 」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!




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