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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
451.幸福寺攻防戦

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

 本堂の外、広縁に立ったトシ子は昔取った杵柄きねづかだろう、素早く、しかし的確な指示を送るのであった。

「編みぐるみ隊は一旦引きな! 代わりにベレト、あそこの端にある石灯篭いしどうろう、あれに奴らの興味を移すんだよ! さっさとしな!」

「あい、姐さん! おいっ! 編みぐるみ隊は一旦引け! このベレトが相手を引き付ける『騙しプシィマ』さあ来い! お願いしますぜ、トシ子姐さん?」

 ベレトの言葉の通り、一旦引き上げた編みぐるみ隊には目もくれず、一斉に石灯籠に向けて歩き出した敵の悪魔達は、一般的に言われるゾンビの姿をしていた。

 依り代は言わずもがな、死体、人間の遺体なのであろう、苦しそうな嗚咽おえつを漏らしながら行進を続けていた。

 トシ子の顔に僅かわずかながら同情の色が滲む。

「哀れだね…… 人って奴は無力な物だよねぇ、んでも恨まないでおくれよ、んまあ、恨んでくれても良いけどねぇ、ゴメンよ『奈落アヴィス』」  

 トシ子の声と同時に、石灯籠に群がったゾンビたちの足元の地面が漆黒と思える程の黒々とした『無』に変じ、数多あまたの死体を依り代とした禍々まがまがしき存在は、深淵の底へと落下して行くのであった。

 幸福寺の敷地内に侵入した敵勢悪魔の数が三分の一ほどに減った事を確認し、一旦胸を撫で下ろしたトシ子は、一瞬後には表情を引き締めて、境内の中で行われている戦いに意識を集中して行くのであった。

 激しい戦闘が行われている場所は概ねおおむね四ケ所。

 三か所には甲虫を依り代にしたのであろう、見るからにカッチカッチに硬そうな悪魔が群がっている。

 ゼパルの能力によって変身している、スイカとバナナ、リンゴに姿を変えているのは、クロシロチロの魔狼達だと見て取れたのであった。 

 甘い香りと美味しそうな果物の見た目に誘われて群がった虫共は、雷撃によって痺れて倒れ、火炎による裂傷にその身を焼かれ、或いは猛毒でも喰らわされたかの様に、自身の体をグズグズと溶かされるがままになっていたのであった。

 もう一箇所での戦闘には、大きな声が鳴り響き続けていたのである、曰く、

「喰らえ! ガープハゲフラッシュゥ! ヴァージョン2021、晩春、コヴィット19ぅ~! オメガ株ぅ~! ババンっ!」

 そちら方面を襲っていた全ての悪魔が苦しそうな咳き込みを始め、恐怖に顔を歪める中、ガープ、禿げあがったバーバラちゃんの声が再び響いたのである。

「これが人間達の苦しみだ、この馬鹿どもめが思い知れぇ! こんな大変な時にこんな事しでかしやがってぇ! 空気読めっ! バッカバッカバッカぁぁ! ハゲフラッシュっ! オミクロン株ぅ~!」

 既に死体であるゾンビや、人間とは生態の仕組み自体が異なるであろう虫型の悪魔が苦しんでいる所を見ると、我々人類を苦しめているコビットの株とは、恐らく変異の仕方が全く違うのであろう。

 『病』の悪魔ガープお手製の、対ゾンビ対悪魔専用のウィルスだと類推できた。

 動けなくなって苦しんでいる悪魔達を、ベレトが空間から取り出したシミターの刃で無表情な白猫のままで、サクサクととどめをさし続けていく。

 離れた場所に逃げ込もうとする悪魔達も、トシ子が広縁から放った『土槍ソルスピアー』によって容赦なく絶命させられている。

 何と言うか、コユキや善悪とは一味も二味も違う、モノホンの迫力が少し怖い…… 

 黙々と急性の病気に震えるゾンビや悪魔達に対して、殺すという単純作業を平然と繰り返しているベレトの姿から、この残酷な行為が、トシ子が現役の聖女だった時代には当たり前の光景だったことが伺えた。

 トシ子が編みぐるみのリーダー的な存在のカエルと三体の男前、カツミ、マサヤ、ナガチカに指示を出したのだろう、最早動いている敵が残り少なくなった境内に散らばった魔核を集め始める編みぐるみ軍団。

 ゼパルと口白達も既に境内や周辺に隠れたり、手負いで死に切れずにいる悪魔達の捜索、殲滅せんめつに入っていた。

 赤と黒の鎧武者姿のゼパルが一体の虫型悪魔の頭を踏み潰し、その場に残った赤い石を拾い上げた時、顔馴染みの人間から話し掛けられたのであった。

「なあ、俺たち茶糖サトウの家の方、見に行っても良いかな? なんか心配でさ」

 両手に草刈り用の鎌を持った三十代半ばの男性、四桐シキリ鯛男タイオはそう言い、ゼパルも気安い感じで返す。

「ああ、こっちは片付いたしな、良いんじゃないか? ギヒヒ! とは言ってもあっちも十分過剰戦力だとは思うけどな、ギヒギヒヒヒ!」

「ああ、一応な、念の為だよ」

 そう言うと足早に駐車場に向かった幸福寺オールスターズの十人は、自慢の軽トラックを駆り茶糖家へと急ぐのであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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