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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
644.全的墜落

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 揃ってディスりながら扉の表面に飾り付けられていた色鮮やかな宝玉を抜き取って自分達のポケットや、追いついて来たトシ子が背負ったリュックに収めて行くのである。

 一見すれば意地汚い盗人ぬすっと行為に見えてしまうかもしれない、だがこの行いには自分達の跡を継いで世界を守るために滅私の覚悟で向き合う仲間達に、経済的な不安まで掛けたくはないっ! そんな純粋な想いが込められているのである。

 むしいさぎよさと美しさ、博愛精神に溢れた立派な行為だと言えるのでは無いだろうか?

 反して二人ともだらしなくニヘラニヘラと下卑た笑いを口元に浮かべ、目つきをギラギラとした三日月形にさせてしまっているのは、えっと、そうだな…… 人間の原罪、所謂いわゆるさがと言うヤツなのであろう、仕方が無い事なのである。

 山菜の群生地を見つけたハイカーや食べ放題で味より量、とチャレンジし続ける知り合いを思い出して頂きたい……
 しくは潮干狩りでむきになって砂ごと編み袋に入れているご家族様や、特段好きなデザインでもないのに安いっ! それだけでサイズも確認せずにワゴンからセール品を目一杯キープする素敵な人達を想像して頂ければ理解し易いかも知れないね、そう、原罪に他ならないのだ。

 ビィョーン! ビィョーン! パタパタパタ! ブワサァッブワサァッ! バッサッバッサッ!

 カラカラカラ、コロコロコロコロ、ドシドシッ! ポロポロポロポロ…………

 ササササッ! サッサッサッサッ! そそくさそそくさそそくさ………

 肉移動の技術を使って高所に飾り付けられた宝形を取り続けて居たコユキの周囲には、自然と高所に対応した面々が集まって来ていたのである。
 分かり易く言えば、カイム、ヒュドラ、モラクスの三柱が空中部隊として三階建ての宮殿から色目たる宝石をパクり続けて、地上部隊は既に持ち帰り用収納係サン的になっていた、その時。

「あーんもうっ! ちょっとおぉっ! アンタ等どんだけ弱いのよぉっ! んもうっ! ちょっとは根性見せなさいよぉぅっ!」

 コユキの真似的な言い口であったが、無論コユキでは無い、太っていない人独特のハイトーンボイスはコユキや善悪ならずともここにいるメンバー達なら誰でも分かる、ラマシュトゥの物であった。

「あ、コユキ殿ぉ! 今のってラマシュトゥの声なんじゃないでござるかぁ? なんかヤバそうでござったが…… どうすんのぉ?」

 両手に宝玉を握りしめ、因業坊主いんごうぼうずその物にトランスフォームしていた善悪がびょんびょん飛んで鹵獲ろかく、いいや略奪行為に夢中だったコユキに軽い口調で問い掛けた。
 んまあ、仕方が無い事なのであろう、何しろ人間の原罪の元となったのは、ルキフェルが受肉を果たしてその身を持った最初の存在、アダムがエヴァの過ちを見逃した行為から始まっているのだから。

 アダムが背負った原罪の名は、ある樹木の木の実を食してしまった事に由来しているのである。
 禁断の実、その名は『善悪の知恵の実』なのである。

 同じく善悪と言う名を持つ彼が楽園、エデンを追放される程の原罪に蝕まれていたとしても誰が責める事が出来るであろうか?
 そんな感じで、原罪たる善悪は今正に、失楽園のリバイバル気分で目の前にあったキラキラとした宝玉に心を奪われてしまっていたのである。

 コユキは即座に答えた。

「どうするも何も、ラマシュトゥちゃんのピンチでしょぉぅ! 行くわよ善悪っ!」

「ああ、んじゃあ行ってらっしゃーい、ヌフフ、又有ったぁー、ほほぉ、こいつは大きいな、ダイヤかな? ヌフフフ、嬉っしいなあぁー」

 コユキは扉に掛けた手を戻して、腑抜けてしまった因業坊主に向けて言い放つのである。

「ば、馬鹿っ! ええいっ、止む無しっ! 『散弾ショット』! 確りしてよ善悪っ! さぁ、ラマシュトゥを助けに向かうわよっ! ほらほらぁぁ! 起きなさいよぉ!」

「んがっ! ここは? お、おおぅ、そうでござるなっ! ねえコユキ殿? ラマシュトゥがピンチなの?」

「そうよっ! 行くわよ善悪っ! 確りしてよっ!」

「お、応っ! 勿論でござるよぉっ!」


拙作をお読みいただきありがとうございました!

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