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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
511.ブラフマンとアートマン

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 カルラは淡々と説明をし続ける。

「死の先ですから物質であるプラクリティ、体は分解されます、火葬の場合は炭化を経る事で分解速度を速めていますね、有機物は次の機会を待つ様に空気中に大地に大海に帰りますよね? この状態がトゥシタ、待機です、さて、ここで生命を構成するもう一つの要素であるプルシャ、皆さんが言う所の魂ですが、肉体と違って二つの道が準備されているんですよ、どなたかお判りになりますか?」

 この問い掛けに即座に反応したのは意外や意外、引き籠り気味で本堂に上がり込んでから一言も発さずに俯き続けて来た、コユキ達の父親、茶糖ヒロフミであった。

「そりゃあさっきアスタ君が言っていたブラフマンとアートマンなんじゃないか、な? あれだろう? 全体意識に戻される、所謂いわゆるリセットされて次の魂として配分されるのを待つのがブラフマン、んで死後も個を維持して悪魔達やウチの婆さんみたいに続きからやり直せるのがアートマンだろ? ああ、そうか、ウチのコユキや善悪君なんかもアートマンの一種になるのかな? だろ?」

『っ!』

「正解です」

『っっ!!』

 完全に門外漢だとばかり思っていたヒロフミが見事に正解にシレっと辿り着いてしまった様である。

「す、凄いじゃないのお父さんたらっ! 何故そんな事も無げな感じで……」

 コユキの驚愕の声に父、ヒロフミは首を傾げて答える。

「ん? 簡単じゃないか? ゲームに置き換えれば簡単だぞ! ソフト買ってプレイして一旦終了するだろう? これが誕生、生きる、死ぬ、だとすれば待機中、トゥシタの間はゲームやってない時って事だろう? ご飯食べてるとか茶畑の面倒見てる時、それかトイレかお風呂って事だよな? んでセーブしてあってコンティニュー出来るのがアートマン、セーブして無くて最初からって状態がブラフマンって訳だっ! 簡単じゃないか?」

 なるほど、この男ならではの道筋で辿り着いたらしい…… 大したものである。

 コユキも同様に思ったのだろう、まだ驚愕の表情のままで自らの父親を見つめながら言った。

「お父さん…… 食事とトイレとお風呂と仕事以外の時間て…… 相変わらずゲームばっかりやってるのね……」

「おうっ! 当然じゃないかっ!」

 何が当然かは知らないがヒロフミが嬉しそうだという事だけは分かった。

 呆れているコユキとニコニコしているヒロフミを横目で見ながら善悪がカルラに聞いた。

「つまり死んだ後の魂は次の仕事を待つ大部屋か、自分だけの控室に戻る大スターか、みたいな感じなのでござるな、それも大部屋の方は一旦リセット、ごちゃまぜ状態でござるかー、なんかおっかないのでござる…… 生き物って辛い未来が待っているのでござるな」

「ん? 善悪様、ごちゃまぜってかバラバラですよ? タンパク質、アミノ酸なんかも水素、酸素、窒素、硫黄に分解されているのが待機中の状態ですよ、全く命が無い状態ではありませんが、植物が根から吸い上げてくれたり野生動物なんかが泥浴ヌタウチのついでに食べたりしない限り出番は有りませんからね、世界中に散って待ち続ける訳なんですよ」

「そっか! 大部屋じゃなくてそれぞれの自宅に帰って次の配役を待っている状態になるのでござるな! ふーん、それぞれの肉体の構成要素だった元素ごとにちょっとずつ魂が残されるのでござるか」

「そうなりますね、自我の本質を魔核に保持しているのが悪魔や神々、又は聖人と呼ばれる人間とかですね」

「なるほどな、物質の生成過程で生物が係るか係らないかが無機物と有機物の違いだからな、そこに差は無いって事なんだな」

 相槌を打つように言った光影の言葉に医師である丹波晃が続いた。

「僕としては元素レベルの状態で命、生命が残っているって部分の方が引っ掛かっちゃうんだけどね、それってつまり無機物にも命があるって事なのかい? そんなの信じられないんだけどさ」

 この言葉にはカルラでは無くバアルが答えるのであった。

「百聞は一見に如かずって奴だね、見て貰おうかな、コユキ姉様と…… うん、死に対して妾と同じ位の専門家って言えば『食人の王』別名『不死の王』でもあるイーチだね、ちょっと来てよ姉様! イーチ休!」

「へ? 何ですか、嫌な予感しかしないんですけど……」

「何よ、面倒だわね」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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