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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
510.死、とは?

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

 コユキは続けて言うのであった。

「人でも他の命でも同じだけどさぁ~、死ぬって何なのかな? お婆ちゃんみたいに死んだ後でも命を引き継ぐ存在もいれば、死んだら、はい、それま~で~よ! 的な人間ばっかりじゃないのぉ! そっちの方が命、命イズム自体より気になるのよねぇ? だって、恐くない? ねえ、光影さん? アンタのお父さんがどうなっているかより、アンタが死んだらどうなんのって…… アタシ的にはそっちの方が気になるんだけどおぉ? 違うのん?」

 不意に言葉を振られた光影は馬鹿でかい個体、コユキに対して答えるのであった。

「ま、まあそうだな…… 俺とても既に人の親だ! 死とは何か、それに付いて教えて貰いたい気持ちは大きい人、コユキさんと同じだな! どうだ? 皆? 死とは何だろうか?」

 バアルとアスタロト、兄弟喧嘩が絶えない二人が声を揃えて答えたのであった。

「「死? それは只の状態の表現ではないのか?」」

 コユキが大きな声で返した。

「じょ、状態ぃ? それってどういうっ!」

 二人は声を揃えて答えたのである。

「「どういうも何も、状態だよ状態っ!」」

「むむむ?」

 ここいら辺が永遠っぽい物を手にしている悪魔達と一回きりの生に精一杯の人間との感覚の差異なのだろうか?

 永遠の命、そこに果てしなく近い存在たる私、観察者には悪魔達の概念の方が理解し易い物ではあるが……

 やはり、肉の体を持つ者が大半を占めている幸福寺の本堂ではコユキの意見に同調するメンバーが大半を占めている事も仕方ない事であったのだろう。

 善悪和尚が大きな声で言ったのだ。

「死とは終りでござろ? 死んだら全部終わり、それきりでござるっ! ねえ、アスタ、バアル? 何ではっきり伝えないのでござる? そこ、隠す意味無いのではござらぬか?」 

 ………………

 アスタロトもスプラタ・マンユもアフラ・マズダもアンラ・マンユも、ゼパルもベレトもガープも、悪魔達の全員が黙りこくる中、バアルがもう一度同じ言葉を告げたのであった。

「どういうも何も、状態だよ状態、死って奴はさ、兄様!」

「状態、でござるか? まさか今まで散々否定して来た仏教的な輪廻転生みたいな事とか? 『死、それは新たな旅を始める為の審査が為される場所への道行』とか言う気では無いでござるよね?」

「ん? それで当たってるよ兄様、正確ではないけどね、否定したってアスタが? 何でそんな事言ったの? 馬鹿なの?」

「いやいやいや、我そんな事言って無いぞ! 只無駄な修行を止めるように言っただけだぞ! 輪廻やブラフマン、アートマンを否定なんかしていないってー!」

 バアルとアスタロトのやり取りを聞いていたカルラが二人に代わって善悪に説明を始める。

「善悪様が仰っている輪廻は人間が考えた生まれ変わりとか極楽とか地獄なんかの話ですよね? 六道りくどうとか」

「うん、そりゃそうでござる、ってかその言い方だとそうじゃない輪廻があるって事でござるか?」

 カルラは大きく頷いて説明を始めるのであった。

「なるほど、人間の皆さんは宗教的な教義や哲学的な意味で生命や死を捉えていたんですね、それでは話が噛み合わない訳だ…… じゃあ最初から説明しますね、この世のありとあらゆる物質、所謂いわゆるプラクリティは四つの状態のいずれかに当て嵌まるのですよ、この四つの状態をグナ、属性と言います」

 善悪が挙手をして口を挟んだ。

「グナってシヴァが戦う時の奴でござろ? ラジャスとか言っていたのでござるよ、あれって三つじゃなかったの? 創造サットヴァ維持タマス破滅ラジャス以外に四つ目が有るのでござるか?」

 カルラが落ち着いた様子で答えてくれる。

「よくご存じですね善悪様、今の三つのグナは生者の視点から見た物ですよね? 誕生し生き、そして死ぬ…… 四つ目のグナは死の先に有る状態ですよ、それはトゥシタ、待機と呼ばれる状態ですね、シューニャ、無とも表現される状態ですね」

 コユキが目を見張って呟いた。

「死の先……」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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