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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
655.招集の勅

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「な、なあルキフェル兄上、そこまでする事は無いんじゃないか、な?」

「何を言っているんだよアスタ! この慎重さ、深慮遠謀しんりょえんぼう、これこそ兄上の真骨頂じゃないかぁ! 妾は良いと思うよ、兄上ぇ!」

 コユキ善悪の左右に控えた弟達、魔神の意見もそれぞれらしい。
 アスタロトが言葉を続ける。

「そうか…… 我、ちょっと可哀想に感じるんだが…… いや、決して兄上のやり方にどうこう言うつもりは無いけどさぁ、何か、むごくね?」

「「む?」」

「確かに、アスタロト様の意見はもっともですね、そこまでしなくともこのサタナキア殿下には逃げ出す力は残されておりませんよ、ルキフェル様」

 軽やかな声音こわねでコユキ善悪の前に現れたのは、千里の天神さんとしてコユキや善悪に馴染み深い存在となっていたアンドロマリウスである。
 片膝を地に付けて丁寧な礼をした後、立ち上がって後方を振り返り、スプラタマンユに向けて何かを放りながら声を掛けた。

「ほい、これがオルクス卿の真核しんかくであろう! 他は…… 魔将と自称していたサタナキア配下達の物らしいな、アモン、プルスラス、バルバドスと言ったかな? ほれ、自分たちの真核を受け取れ! 残りは仲間たちに返してやるんだな」

「「ほおー、見事な手際、大した物だなアンドロマリウスよ、登場のタイミングもバッチリだったしなー」」

 感心した様な声を上げるコユキ善悪にアンドロマリウスはキョトンとした表情で返した。

「タイミング、ですか? これは異な事を仰る、ご自分で招集されたではありませんか、『全員俺ちゃんの前に集まって座れ』でしたよね? これからまだまだ集まってくると思いますよ、なにしろ勅命ですからね」

「「えっ!」」

「地獄の三層以外の神殿や異界、人間社会に隠れ住む配下とその眷属、盟約を交わした友好勢力も駆けつける事でしょうね、おっと、ここ一万三千年で新たに生まれた悪魔や神々もこの機会に縁を結ぶ為に来るかも知れませんね、うん、ここでは少し狭いかな?」

「「狭い、のか……」」

「ええ、多分」

「「!」」

 その後限界を迎えた下半身、善悪がすっ転んで合体を解除したコユキは部下たちに指示を出して、集まってくる悪魔達を迎える為の準備を急ぐ事となったのである。

 この場に次々と現れた『喰らう』主義者に堕落し掛けていた元々の配下は勿論、善悪の念珠から顕現させた、アンラ・マンユとアフラ・マズダ、逢魔が原に待機させていた弾ちゃん達とその配下となっていた北海道の魔獣達、ようやく勝負が付いて合流してきたアジ・ダハーカ、口白とアルテミス、カルラまで加えての大仕事が始まったのである。

 具体的には、今一つセンスに難が在るリョート宮殿をまともに見せる為に、阿呆みたいな色鮮やか過ぎる下品な宝玉を取り外す事が最初であった。
 これにはカイムが指揮に当たり、ストラス配下の鳥型悪魔達が力を振るったのである。
 多少雑に抉り取った壁面は、魔神アスタロト自ら冷気を集めて鏡面仕上げで補修を施した。
 まあ、三魔神の面目躍如めんもくやくじょって所であった。

 旧裏庭を囲んだ無駄に強固な城壁は、オリジナルの姿に戻ったシヴァが『魔力崩壊カタストロフ』一撃で粉々に砕け散らせた。
 ラマシュトゥの『強靭治癒エニシァシ』によって以前の数倍大きいだけではなく、美しく壮麗で繊細な植物や花々、ありとあらゆる生き物をモチーフにした彫刻を施した流麗な薄壁に作り変えられたのである。

 来賓を迎える広場はトシ子によってタイルが敷き詰められ、中央には全ての水を支配する悪魔、アガリアレプトに拠って、不凍の噴水がしつらえられていた。
 ルキフゲ・ロフォカレと彼の眷属は力を尽くし、この庭に射す全ての影を排除する術を施したのである。

 こうして急遽造営されたニブルヘイムの庭園は、仕上げとばかりにリョウコが発動した、『ギリースーツ』によって咲き誇る、多種多様な花々によって、正に百花繚乱の様相を呈して、訪れる者を迎えるのであった。

 因みにこの間、サタナキアはパズスのくさび文字に拘束され、ジッと陰鬱な視線を足元から移すことは無かったのである。


拙作をお読みいただきありがとうございました!

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