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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
603.濡れ衣

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「駐在さんや、今うちのコユキが言ったじゃろうて、そこの二人は魔神アスタロトと魔神バアル、日本で馴染み深い言い方で呼べば、海の神ポセイドンと冥府の王ハデス、こっちの小っちゃい十四体は揃って魔王、それそれが軍団を率いる大物の悪魔じゃぞい、善悪のフィギュアを依り代にしとるから可愛らしいがのう」

「その声はトシ子お婆さんですね、ほっ! いるじゃないですか、マトモな人が…… 説明して下さいね、ってどうしたんですかその見た目…… 皺は? 薄毛は? もっとこう老いさらばれていたでしょう、こう、後ちょっとだな、って感じでしたよね? まるで娘じゃないですかぁっ! 整形? アンチエイジング? いやいやいやあり得ないでしょうっ!」

 今日は野菜の直売所を出さずに、畑の世話をしていたトシ子が本堂に上がりながら頬かむりの手拭いを外し弾ける様な青春真っ只中丸出しの姿を見せると、民生は目が飛び出さんばかりに驚いて周囲をキョロキョロと観察し始めるのだった。

 本堂の中には巡査、民生にとって見覚えのあるリエやリョウコの顔もあったし、良く耳を澄ませばヒロフミやミチエがお茶を薦める声も聞こえてはいる。

 しかし、境内に出店されている何軒かの出店には、なにやら不審な人物の姿が散見されている事にも気が付くのであった。

――――な、何だあの青紫のデブは…… あっちの女性は顔色真っピンクって…… それに良く見てみると全員服装が一般人のそれとは明らかに違う…… コスプレ? いやいやいや、何名かは絶対、と言うかほぼ全員日本人じゃないだろ? 何が…… はっ、悪魔! 確かコユキさんは最初から悪魔や魔獣について言っていたような…… そうか、彼女は最初から嘘は言っていなかったんだ! 全て本当の事だったなんて、くぅぅ、これは本官の大間違いだったという事だ! 猛省しなければならないだろう…… ん? コユキさんが嘘を言っていなかったという事は…… っ!

 民生衛は自分に縋りついてガタガタ震えている馬糸信也の手を取って言った。

「逮捕する!」

 ガチャリ!

 冷たい手錠が馬糸信也の手首に掛けられたのである。

「へ? へえぇっ! な、何するんですかぁ! 突然っ!」

「うるさいっ! ストーカー及び下着泥棒の容疑だ! この変態めっ! 徹底的に取り調べてくれる、覚悟しておくんだな! ぺっ!」

「な、さっき説明したじゃないですかぁ! 事のあらましをぉ! ね、コユキさんからも言って下さいよぉ!」

「本官は聞いていないぞ、というか聞き取れなかったのだ」

「アタシもよ、こりゃ参ったわね、これで真面目じゃ無かったらどうしようもないとは思ったけど、まさか本当に不真面目な人だったなんて、如何にアタシが誉王ホメオウの称号持ちでもアンタの良い所は見つけられないわよ、馬糸さん」

「えええっ! ちゃんと言ったじゃないですかぁ! やってませんよぉっ! 嫌だ、冤罪えんざいだぁっ!」

「何ユキ姉、こいつがパンツ泥棒なの?」

「嫌らしぃー、顔がもうぅ犯罪者ってぇ感じぃー」

「ち、違うんだぁーっ!」

 因果応報とは何だったのか?

 馬糸信也は犯してもいない罪によって無事(?)お縄となったのである。

 まあ、その後一所懸命に叫んだ結果、早口を何とか聞き取れた善悪の通訳によって嫌疑を晴らす事に成功したのだが……

 渋い顔をしながら手錠を外した民生巡査は馬糸に告げた。

「まあ、今の所保留にしてやるがな、後でもう一度聞かせて貰うからな、筆談で…… このまま済むと思うなよ」

「ひ、酷い…… 和尚さんしか信じてくれない…… 一体どうすれば身の潔白を証明できると言うんだ…… 僕はもう終わりなのか……」

 やれやれと首を振っている善悪以外のメンバーは、事ここに至って尚、馬糸に対して変態を見る顔つきである。

 針のむしろ、何もやってはいないのに……

 そう絶望しかけた馬糸の肩に優しく置かれた手があった。

 振り返るとそこにはピンク色の象が二足歩行しながら微笑んで、立てた親指を自身の肩越しに指す姿があった。

 ピンク象の後ろには、ヤケに派手な装飾品を付けた坊主が、こちらも優しそうに微笑んでいたが、馬糸と目が合うと言葉を発するのであった。

「私が貴方を導きましょう、六道りくどうに迷う衆生しゅじょうよ」

「あ、貴方様は?」

「私はスカンダ、地蔵と呼ばれています、そこの象は弟のガネーシャです、さあ、共に道を歩いて行きましょう」

 そう言うとスカンダとガネーシャは揃って背後に後光を輝かせて見せたのである。

 絶望の最中で神々しい感じの姿を見た馬糸は、二人に対して手を合わせ必死に祈りながら言う。

「神様、どうかお導き下さいませ、逮捕は嫌です、お願いします」

「うんうん、そうかそうか、安心して我等に任せて置きなさい」

「兄貴やったな、コアな信者ゲットだぜ(ボソッ)」

「これこれ、聞こえますよ、ガネーシャ(ボソッ)」

と、まあ、警察的にはまだまだ疑っている状態では有ったが、馬糸的には何だか救われたような顛末を横目にしながら民生巡査は善悪とコユキに向き合うのであった。

「ふぅ、どうやら妄想とかでは無くて悪魔や神様が集まっていると言うのは本当の様ですね」

「おお、信じてくれるのでござるか?」

「そりゃこれだけ皆さんの動き回る姿や、さっきのオーラや今の後光を見れば、ね…… それで本官に頼みたい事って何なんですか? 拳銃だったら渡せませんよ?」

「うん、実はね――――」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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