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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
648.滅私

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 慰める訳でもないだろうが、コユキはうつむいたバアルの肩に気楽な感じで手を置いて善悪に言う。

「色々あったからねぇー、だけども過ぎた事はもう良いじゃないの、未来のために今できる最善を尽くす、それだけでしょ? 反省して先に活かすのは良いわよ、でも袋小路の後悔じゃ何にもならないじゃない? 今出来ることに一所懸命だよ、みんなっ! さぁ、やれる事をやろうよ善悪! エスディージーズでこの魔核を復活させてみようよ! ねっ!」

 なるほど、もっともだな……
 過去の失敗を繰り返さないように次の機会に活かすのならば意味はある、だが、過去の過ちに囚われて、『あの時こうしていれば今頃はきっと……』とか妄想し続けている事は多くの場合、不毛の極みに他ならないな……

 だってほとんどの人はループの機会は与えられ無いからね!

 つまり、当たってもいない宝くじで何億も当たったらどうするか?
 昨日までと違って朝起きたら、理由も無くモテ捲くっていたらどうしようか?
 現実で無理だったらうっかり死んでやり直しの異世界で、前世ではハシにも棒にも引っ掛からなかったゴミみたいな特技で都合良く無双してしまったり?
 そんな事には何の意味も無いのが世界の常である。

 大切なのは、宝くじが当たらなくても、不自然にモテたりしなくても、都合悪いままでも、自分自身が変わらなければ、と言うか他人から見て変われていなければ、この世界で何度でも同じ悲劇は襲ってくるって事ではないだろうか?

 そして、過去と同じ苦しみを味わい、過去と同じようにもっとこんな世界だったら良いのに……
 周りが変われば良いのに……
 そんな風に自分以外の責任にして怨み節ばかり、そうしてまた繰り返す……
 悪いと言ってる訳ではない、それがその人の選択ならば。
 
 ただコユキは違うようだ。
 今出来ることを精一杯、一所懸命に向き合う事で、過去の、周囲や世の中のせいにして変われなかった自分をゆっくりでも少しずつでも変えていこうとしている、あの日、灰色で黒々としていたヤギ頭、オルクスに出会ってしまった日から一心に願い続けてきたことは何であっただろうか?

『アタシがやるしかないんだから!』

 それであった。

 家族が復活した。
 アスタロトを加えた新生パーティでバアルを迎えるために悪戦苦闘の日々であった。
 頼もしくもハチャメチャな仲間が増えた、激変した環境下でも出来ることを精一杯やってきた。
 後は、サタナキアを強くしてあげるだけである。
 死にたい訳ではない。
 只、今出来る事で最善だと思った事がそれだっただけなのである。

 あの時頑張っていたら……
 あの日、苦痛から逃げ出していなければ……
 もっと上手く出来ていれば……

『こんなじゃなかったのにっ!』

 二十年近くの間、コユキは引き篭もりながら、ずっとそんな風に考えて来ていたのだった。

 考えていただけではない。
 知り合いや親戚からは何度も就職を勧める親切な声もあったし、三十歳を過ぎてからはお見合いの話もそれなりに貰っていた。
 その全てを否定的な言葉で回避し続けて来た。

『もう一度同じ思いをしたら…… 怖いっ! 頑張って報われないのは…… もうっ、いやだっ!』

 家族は動かなかったし、国家権力も力を貸してくれはしなかった……
 友達も少ないしもう駄目だと思った……
 それまでのコユキなら諦めていた、当然だ!
 だって一般人以下の無職でニートで腐女子で、肥満に過ぎる落伍者だと自分でも思っていたのだから……

 だけど、彼女は、コユキは思った。
 動かない家族達の姿を見て、妹達の体に手を沿わせながら。

『アタシがやらなくっちゃっ!』

と。

 善悪に任せよう、そう思った事もあったが割と早めに思い直した。

『アタシがやるんだっ!』

と。


拙作をお読みいただきありがとうございました!

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