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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
444.特別攻撃隊

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「善悪! アタシ特攻(特別攻撃隊)するわん!」

 善悪は驚いて言葉を返す。

「はっ? 何でござる? 藪から棒にぃ! 今、特攻したイーチ君がどうなったか見てたでしょ? なに? 馬鹿なの? 遂にオベンキョだけは出来た脳みそ迄、中性脂肪に浸食されたのでござるか? もう、馬鹿なんだから、バッカ! バッカ! このデブっ! でござるっ!」 

 聞いていれば只の酷い言いざまである、しかし、それもこれも只々一途な気持ちで愛するコユキを心配する善悪の赤心せきしんから出た言葉なのである、だと言うのに脳を完全に腐らせたコユキが言いのけやがったのである。

「いいえ、それは違うわよ善悪…… そんなオダテには乗らないわ、アタシなんてまだまだガリガリよ、でもね、ここは行かなきゃいけない場面だって事位、痩せっぽっちのアタシでも分かるのよ、ねえ、お願い協力してよぉ! サポして! エクスプライムとかエクスダブル、イペラスピツォとかアスピーダでフォローしてよぉ!」

 ほう、中々に粘るな痩せっぽっちの婆ちゃん……

 しかしである、どれほど頼もうが我らが軍師、王国のつるぎであり共和国のつるぎでもある善悪はそれ程甘い男では無いのである。

「そういう精神論とかで許可できる状況では無いでござろ? 勝算も無く行かせる訳にはいかない! これは絶対でござるよ! もし特攻したければ、拙者や皆が納得できる説明を求む! そう言う事でござるっ! そうでない限り、某たちは絶対に許可なんか――――」

「…… ゴーストが…… アタシのゴーストが、そう、囁いたのよ……」

「えっ? ご、ゴースト…… ゴーストが囁いた、の?」

 こくりと頷いて見せたコユキの顔を見つめながら善悪が静かに言った。

「ゴーストが…… 分かったのでござる…… ならば、行くが良いのでござるよ! 俺っちはフォローするのでござるよぅ! 少佐!」

 パズスやオルクスも否は無いようで力強く頷いていた、私、観察者は思った、何なんだよゴーストってそして少佐って誰? と。

 ビッシィと敬礼を決めたコユキの姿には、締めてもいない鉢巻の幻影が見えた、七生報国しちしょうほうこくとか何とか見えた、錯覚だろうか、兎に角彼女は言ったのである、大きな声で……

「善悪…… ネットは広大だわ……」

「ああ、自分のゴーストに従えばいい…… でも、俺のセカンドハウス…… 覚えてるよな、コユキ……」

「うん、分かってるわ、じゃ! ね!」

 なんだろうか? まあ、兎に角コユキは身一つで岩陰から飛び出したのであった、ただ一つの首、円らつぶらな瞳でこちらを見つめ続けている個体に向かって……

 走りながらコユキが叫ぶ。

「ねえ、アンタ! 丸まってよぉ! クルリってなってぇぇ! お願いよおぉぅ!」

 クルリ

 当たり前の様に首を丸める円らな瞳をした一本きりの首。

 コユキは満面の笑みを浮かべて叫んだのである、その身をボンキュッボンの美ボディに変じつつである。

「よっしゃあぁぁぁーっ!」

 コユキの体がやせ細るのに反比例する様に巨大化したカギ棒をしっかり握り込んだコユキは、首ちゃんが作ってくれた編み初めの輪っかに向けて再びの叫びを放ち、慣れ親しんだ行為、立体編みを始めるのであった、それはそれは凄まじい早編みであった。

 クルクルクルクルクルクルクルクルクルクル――――

 この作業の間、善悪とオルクス、パズスやラマシュトゥのサポートがとても良い裏方仕事を続けた事も、彼らの名誉の為に伝えておこう。

 舞台は主役だけで作られている訳では無く、それは人生にいても同様の事であろう。

 そして作業は表裏一体ひょうりいったいの努力の結果、成功裏せいこうりに終了を迎えたのであった。

「討伐、完了! そして前言修正、ニットは偉大だわ……」

 二本の巨大なカギ棒を構えて後ろを向いたコユキの背後で、ひとモッチャリになった数百の首の集合体が固まり、重力に耐えきれなかった胴体部が崩れ落ちるのであった。

 ズッドーンと大きな音を響かせて、であった。

 プルプルしている元ヒドュラ、現肉の玉の中から、人懐っこい瞳を輝かせてコユキを見つめ続ける一つの首が嬉しそうに、巨大な牙を覗かせつつパクパクと口を開け閉めしている。

 コユキは言った。

「んじゃあ、プスリと行くわよ? これからよろしくね、ヒュドラ君! えいっやっ!」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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