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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二部 四章 メダカの王様
754.美しい王様の印

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 ナッキの横からヒットが言う。

「な、ナッキ、意外に大きな魚じゃないかよ…… 噂って当てにならないんだな……」

 そう言われたナッキは目の前に並んだメダカと、後ろに居るギンブナ達を交互に見比べてからメダカに向き直って言葉を続ける。

「大きくは無いね、でも見てご覧よ! 皆、立派で美しいでしょう? どう?」

『立派? それに美しい、ですか?』

「ああ、そうだよ、でしょ?」

 メダカ達は即答せずに、全員同じ表情同じ姿勢で固まったままだ。
 メダカがこう言った状態になった時は、何かを熟考している時だ、ナッキはここまでの生活でその事を理解していた。

 故に言う。

「ね、ねえそんなに考え込む事じゃ無いよね、社交辞令的にもさ…… これから上手くやって行く為にもそこは頷いておこうよぉ、みんなぁ~」

 ナッキの声に答えたメダカ達は一切悪びれる様子も無く声を揃えた。

『でも皆さんは王様と違って立派な鰭を持っていませんよね? それに美しい王様の印も戴いていませんが?』

 ナッキは素っ頓狂な声を上げる。

「へ? 今まで言ってた立派って鰭の事、だったの? そ、そっか、確かに僕の鰭って大きいもんね、でも印って? 一体何の事なんだい?」

 この質問には素早いアドバイスが入った、ナッキの後ろ、オーリの声だ。

「ナッキ、貴方の枕、額の緑の石の事じゃ無いかしら?」

「こ、この緑色の石の事? ねえメダカの皆、この緑の石が王様の印に見えるのかい? 地味じゃない?」

『緑?』

 またもや首を傾げるメダカ達、今度は彼らの後方から愉快そうな声が聞こえた。

「ナッキの王様よぉ! その額の石だろ? アンタ等ギンブナにはそいつが緑色に見えているんだな? 大した色覚だぜ!」

「ティガ? 色覚って何さ、色って皆同じでしょ、違うの?」

「いいや王様、色は種族毎に見えたり見えなかったり、全然違うものなんだぞ? 中でも我々魚類でその石の色を緑だと認識できる種族はほとんど居ないんだ! 俺たちには何色にも感じられないんだよ」

「我等カエルにもその額の石に色を感じる事が出来ませんぞ、お前等はどうだ、モロコよ」

「ふむ殿様もですか、確かに私にも見えませんな、何色とも表現できません」

 ウグイのティガに続いてカエルの殿様、モロコの議長も次々と同意の声を上げてきた。
 ナッキは不思議そうな表情を浮かべて聞く。

「色を感じないって…… じゃあさ、どんな風に見えているの?」

 これにはメダカが声を揃えた。

『太陽! お日様みたいにキラキラ光っていますよ王様! 大変お美しいです!』

「ぴったりな表現だぜ、ナッキの王様よお!」

「おお、それは良い名前だな、ではこれからナッキ王をその様に呼んではどうだろう? モロコよどうだ?」

「殿様にしてはナイスアイディア! 『美しヶ池』の『太陽王ナッキ』! 良いじゃないですか! これに決まりっ! ですな~、はっ! 無し無し、ナッキ王は『メダカの王様』! 『メダカの王様』以外、有り得ませんぞぉ~っ!」

『ならば良し……』

 モロコの議長は九死に一生を得た…… 危なかったがモロコ独特の臆病さから、メダカ達の殺意を敏感に感じ取る事が出来たからである、良かった。

 彼の無事に胸を撫で下ろしたナッキはしみじみと言う。

「そうかぁ、みんなの目にはこの石は太陽みたいに光り輝いて見えていたんだねぇ、それを美しいって言っていたのかぁ、じゃ、じゃあさ、僕以外のギンブナはこんな石を着けていないけどさ、それでも『美しヶ池』に迎え入れてくれるのかな? 僕ずっとギンブナは皆僕より大きくて立派で美しいって言って来ちゃったから…… 嘘吐いてた事になるんだよね…… それでも、受け入れてくれるかい?」

 メダカだけでなく、殿様や議長を追いかけて来たカエルとモロコ、それに水路を埋め尽くすように姿を現した全てのメダカも声を揃えた。

『大歓迎です!』

「良かったぁ!」

 喜びの声を上げたナッキと、その周りでホッとした表情を浮かべたギンブナ達は、新たな仲間に促されるようにしてこれから住み暮らす池、『美しヶ池』に入って行ったのである。


拙作をお読み頂きまして誠にありがとうございました。

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