【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第二部 四章 メダカの王様
742.旅立ちの扉
一頻り笑いを交わした後、ナッキは大きな声でその場に集まっている面々に告げる。
「じゃあ、仲直りをしよう! カエルもモロコもお互いに謝って、そんで許しあってね! これからは仲間なんだからねぇ! そうして皆が平和に暮らせる池を作るために下の池に向かおうよっ!」
『はいぃっ!』
今までの仲違いが嘘だったようにモロコとカエルは我先に謝罪の言葉を交わし合い、同時に許しの言葉を返し合い、その後互いに笑顔で、『そっちの卵不味かったよ』だとか『お前等の子供腐ってんの』などと和やかな会話を交し合って行ったのである。
満足そうにその姿、表面上の和解風景を見ていたナッキに、評議会議長を勤めていたモロコが声を掛けて来たのだ。
「へへへ、それでは王様向かいましょうか? 禁忌の場所、『旅立ちの扉』へ、でしょう?」
ナッキは言った。
「禁忌? 何、それ?」
議長だけでなく、カーサとサム、殿様と手下のカエルたちも声を揃えて返したのである。
『えっ? 『旅立ちの扉』、ペジオの門ですよぉっ!』
「ペジオ?」
いつも通りナッキにはチンプンカンプンであった。
周囲の面々から簡単な説明を聞きながら、上の池の東の端、メダカの王国との隣接点まで案内されたナッキは、眼前に現れた光景を見ながら言う。
「これが神様、バエルやダゴンと行動を共にしていた仲間たちのリーダー、ペジオが旅立ちの日まで近付いちゃいけないって、カエルやモロコのご先祖に言い付けていった『旅立ちの扉』、ペジオの門かぁ!」
サムが訳知り顔で言う。
「そうですとも、何でもこの地を離れる時に、ペジオ様自らこの門を閉じて行ったようですよ」
「へー、そうなんだねぇ、モロコ達に伝わっている伝説かぁ」
「ええ、そうなんですよ♪」
ご機嫌なサムで有ったが、カエルの殿様が横槍を入れる。
「王様っ! カエルに伝え聞く伝説では、彼のペジオ様は二足歩行で巨大な存在だった様でしてね、それはもう、見上げるほどの巨体だったそうですよ?」
ナッキは表情をやや曇らせて言う。
「えぇっ? 二足歩行で巨大ぃ! それって若しかしてぇ、まさか『ニンゲン』、じゃ無いよね?」
殿様は答える。
「はっ? ペジオ様ですかぁ? 確かペジオ様は『エルフ』とか言う種族だったとか…… ニンゲンと言う種族は聞いた事もありませんが…… 何なんですか、そのニンゲンと言うのは?」
ナッキは胸を撫で下ろすのである、心底安心した感じである。
「ああ、『エルフ』かぁ、なら良いんだよぉ、『ニンゲン』じゃないならねぇ! 恐ろしいニンゲンについては又今度、確りと説明するからさっ」
「? は、はあ」
どうやらモロコとカエルは残忍な殺し屋『ニンゲン』の事を知らないと見える、恐怖の『釣り』と合わせて丁寧に説明しなければなるまい、そう心に決めたナッキは、改めて目の前の光景に注目するのだった。
上の池の内壁は、下の池『メダカの王国』と同じ土で出来ていたが、この『旅立ちの扉』の辺りだけは細かな石を積んで作られていて、石同士の間の僅かな隙間には、落ち葉か何かが詰め込まれているらしい事が見て取れる。
カーサがナッキに声を掛けた。
「どうですナッキ様、壊せそうですか?」
ナッキは自信満々に頷いて言う。
「うん、大丈夫そうだよ、でも壊してから何が起きるやら…… 皆、覚悟は良いかい?」
モロコとカエルが頷いたのを確認したナッキは、下の池の『死の岩壁』を破壊した時と同様に、大きな鰭を躍らせながら小石の壁に激突する。
ガラァッ! ボゴンッ! ザッバァーッ
一度で見事に崩れ落ちた壁の先はやや下方へ通じる水路になっていたようで、中にあった空気が勢い良く上の池に飛び出して、周囲の水は撹拌されながら同時に水路に向けて勢い良く流れ込むのであった。
ナッキを先頭にモロコとカエルも抗う事も出来ずに、錐揉み状になりながら水路の先へと流されて行く。
水に揉まれながらも必死に前を確認したナッキの目に、灰色の巨大な壁が迫っている事が映り、思わず全身に力を込めたその時。
ガッキーンッ! ガシャガシャガシャァーッ!
額から壁に打ち付けられたナッキであったが、派手な激突音の割りに痛みは殆ど感じる事無く壁を打ち破ることに成功したらしく、その亀裂の穴が切欠となったのだろう、水路の奥に立ち塞がっていた灰色の壁は水圧によって崩壊したのである。
「あーびっくりしたー! 皆、大丈夫だったぁ?」
そう言いながら目を開いたナッキの目の前には、五百を超えるメダカ達が大きな瞳を更に大きく見開いてこちらを注視している姿が有ったのである。
「あれ? ここは? あぁ、餌場に繋がっていたのか…… ただいま、皆」
『お帰りなさい、『メダカの王様』』
メダカの大群に息を呑むモロコとカエル達を横目に笑顔で帰還の挨拶を交わすナッキとメダカ達。
『旅立ちの扉』ペジオの門は、何の事は無い、下の池の餌場に繋がっていたのである。
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