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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
145.シヴァ

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 では、少しだけ、個別に想い出を示していくとしようか。

 まず、山形、庄内を顕現の地に選んだシヴァの話から紹介しよう。
 黒毛和牛と短角赤牛たんかくあかうしの混合種、赤黒和牛といわれる牛がいる。

 ある大学の研究者たちが、至極まじめに生み出した固定種であった。
 何と代理母に、乳牛としてメッチャ有名なホルスタインを選ぶという徹底振りであった。
 別名『農大和牛』とも呼ばれ、黒毛、赤毛双方の良い所取りを成功させた、タップリと夢の詰まった未来の御馳走肉と言って良いだろう。

 研究者たちは更に、生まれた双子の牛を育てるに当たって、別々の飼料を与える事による、肉質や食味の変化をも調べたらしい。
 このレポートに感化された、とある肥育農家は、国内有数の穀倉地帯ならではの、肉質を誇る自慢の黒毛和牛達の内、百頭を選んで牧草のみでの飼育を始めたのであった。

 食べなれた穀物類中心の食事を、突然変えられただけでなく、今までなるべく動かない事で体を大きくしていた牛たちに、いきなり課された運動という試練に、百頭の黒毛和牛達は辟易へきえきしていた。

 彼等の心の中にあった欲望は、

────前に食ってた餌、喰いて~な~

と、

────運動したく無~な~

この二点だけであった。

 単純な願い、その上慣れない食事と過度な運動によって弱りきった彼等であれば、『馬鹿』状態でも大した脅威にはならないだろう。
 そう考えたシヴァは彼等を依り代に選ぶ事にしたのであった。
 いざという時の魔力譲渡先も百頭もいれば十分だと判断したのであったが……

 結論から言えば、やばかった、ギリッギリ、セーフであった。
 肥育農家のおじさんに宿ったシヴァを解放するまでにコユキがプスッと処理した黒毛和牛は九十六頭、残り四頭を残すのみであったのだ。

 モラクスの劣化版といった感じの牛達は、揃って痩せており、栄養失調なのか覇気の無い目をして立ち尽くしていた。
 その為、苦労はしなかったが、コユキ的には中々にトラウマっぽい体験であった。

 それでも、シヴァを解放して赤い石一個と透明な石九十六個を回収していると、牛たちが次々と目覚め、残った四頭と一緒に我先にと牛舎の中に入って行き、置いてあった穀類中心の飼料を勝手にムシャムシャと食べ始める姿を見た時は、少し胸のすく思いであった。

 その後、目を覚ました農家のおじさんに可哀想だとか、思い付きで動物いじめちゃ駄目だよだとか、きっとそのせいで牛達が悪魔的に変身したんじゃないのだとか言ってみた。

 おじさんも反省しているようで、もう実験はやめるよ、と約束してくれたのであった、良かった良かった。

 こうして、無事シヴァを迎え入れた『聖女と愉快な仲間たち』であったが、最後のアヴァドンが一番の大事おおごとになってしまうのであった。

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