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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
381.不審人物 (挿絵あり)

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

「なんだっ! おいっ! 一体なんの音だっ? ええい、兎に角お前に用はない! さっさと帰れ、このデブ女!」

 幾ら交渉が決裂したとはいえ、今日初めて会った女性に向けて、デブとは……

 随分失礼な金持ち野郎じゃないか!

 憤慨する私とは対照的に冷静でノーダメに見えるコユキは小さく呟くのであった。

「なにがダブルだって言うの? 倍の二千円を提示すれば良かったのかな? まあ、覆水盆に返らず、過ぎたるは及ばざるが如しってことか……(正解!)これからどうしよっかなぁ~、仕方ない夜陰やいんに乗じて忍び込むか!ん、んん?」

 そうか、デブの語源は英語で言う所のダブルチン、所謂いわゆる二重顎の意らしい(諸説あります)。

 現実的にトリプルチンであるコユキがノーダメージだったのも頷ける。 

 言いながら塀沿いにとぼとぼ歩いていたコユキは、何となく侵入しやすそうな個所を探していたのだが、その塀を軽々とした身のこなしで乗り越えてコユキの先の地面に華麗に着地した人影を目に止めると、瞬時に物陰に身を潜めたのであった。

――――く、曲者くせもの

 ドキドキと胸の鼓動が早鐘を打つが、同時にコユキの腐り切ってグズグズと音を立てて崩壊中のシナプスが高速回転を始めたのである。

――――こいつがさっきのガシャンの犯人よね、何か盗って来たとか、か…… 捕まえて引っ立ててやれば、感謝されて鶴の尾羽が貰えるかもしれないわ! よしっ! 跡をつけてやろう

 そう決めたコユキの耳に、邸宅の中から主とお手伝いさんらしき話し声が届いたのである。

「なんだ? 泥棒だとっ! 馬鹿な、ボスが吠えるだろうに! 伊達ダテにマスチフを飼っているんじゃないんだぞ、ボスはどうしたんだっ!」

「旦那様、ボスは来週のワクチン接種が、動物病院の都合で本日に変更になりまして、そのコロナ関連だそうで……」

「何だとっ! くぅ、タイミングの悪い! だとしてもセ○ムはっ! 何故セ〇ムまで作動しないんだっ!」

「そ、それが、ガラスが割れる直前にこの辺り一帯が停電したらしいんです、いつ復旧するのか、あ! つきましたね……」

「で、盗まれたものに見当はついているのか?」

「はいご主人様のご趣味用の第二物置に侵入したようなのですが――――」

「そうか、あそこには価値のある物は置いていなかったな、ふぅ不幸中の幸いか……」

「そ、それが、今朝飛び込みで営業に来たお掃除サービスのデモを応接間でやらせていまして、念の為に飾ってあった貴金属や見せびらかし用の札束をこちらに移してありまして……」

「何だと! そういえばそんな事が…… クソっ! なぜこんな不運ばかりが重なるのだ! 忌々いまいましい、おい、さっさと警察に連絡を入れろ!」

「はっ、はいぃ!」

――――ほう…… 確かに偶然にしては重なり過ぎじゃないの、しかして悪魔とか? それか新手のスタンド使いかしら? いや、考えすぎよね……

 首を振って視線の先の不審人物に意識を集中するコユキの前で、くだんの男はパタパタと自分の上着をてのひらではたいていた。

 先程の見事な身のこなしから若者だろうと思ったが、よく見ると歳は六十代位、所謂いわゆる初老であった。

 反して、その服装は年齢にそぐわない、何と言うかチャラチャラした格好である、具体的には黄色いレンズのグラサンに、斜めにかぶったキャップ、パーカーにジョガーパンツといった香しいかんばしい出で立ちであったのだ。

 男のジョガーパンツのポケットは盗んだ貴金属や現金が入っているのだろう、パンパンに膨らんでいるのであった。

 コユキの観察に気が付いていないであろう男が、不意に声を発した、服装同様、年齢に相応しくないライトな言葉である。

「あん? んだこれ? 羽ぇ? いらね」

 男は自分の肩にいつの間にか刺さっていたのだろう一枚の純白のずんぐりとした鳥の羽を投げ捨てたのであった。

――――っ! 羽、ってまさか……

 男に慌てる様子はなく、ぷらぷらと歩きながらごく自然についでに盗って来たのだろうか、真っ赤なリンゴを二度齧ると興味を失くしたのかぽいっと投げ捨てる。

――――なんてヤツなの……

 キョロキョロと辺りを見回しながら角を曲がっていく男の背中を見届けたコユキは、先程男が捨てた羽を急いで拾いに走るのであった。

 そして感動した感じで口にするのである。

「間違いねぇ、こいつぁアーティファクトだぜ! この感覚、うん、鶴の尾羽ゲットだ…… げへへへ、しめしめだぜ~、あの兄さんにゃ感謝しなくちゃならねぇぜっ!」

 そして同じ穴のムジナへと落ちぶれたコユキはコソコソと人目を気にしながら、調布の街の人込みへと消えて行ったのである。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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