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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
601.ブラックリスト

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

今回の話には、
『5.妹 (挿絵あり)』
『477.SS ハーフっぽいイケメンのストーカーは下着泥棒?』
の内容が含まれております。
読み返して頂くとより解り易く、楽しんで頂けると思います。
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 もう一度説得するか、そう思ったコユキが口を開こうとした時、コンビニから出て来た店員が二人に向かって声を掛けて来た。

「あのー、何かあったんですか?」

「っ!」

「ああ、これは! お店の前で立ち話なんてお邪魔でした、申し訳ない! もう交番に向かいますので! ほらコユキさん、交番に行きますよ!」

「えっ? アタシは幸福寺に――――」

「もう! 何回言えば分かるんですか? コユキさんみたいな妄想癖がある人が、とんでもない事を起こす前に思い留まらせる事も地域課の仕事だと、本官は思っているんですから! ほら、本官を信じて! コユキさんの為でもあるんですよ!」

「アタシ妄想癖なんかじゃ……」

「何を言ってるんですか? 忘れたんですか? ハーフっぽいイケメンのストーカーにパンツ盗まれたとか妄想して本官を呼びましたよね? あっ、そう言えばその後少ししてからいたずら電話もして来たじゃないですか? あの時も悪魔がどうこう言ってたじゃないですか! あー、こりゃ尿検査した方が良いな……」

「妄想じゃない……」

「はい、妄想じゃ無いですよ、ハーフっぽいストーカーのパンツ泥棒って俺ですから」

「は?」

「へ? あ、アンタお見合い申し込んで来た『七三黒メガネ真面目』さんじゃないのよぉっ! ここの店員さんだったのね!」

 コンビニの店員は改めてコユキにお辞儀をした後、ポリスマンに向き直って言った、落ち着いた声である。

「私はここのアルバイト店員、名を馬糸信也ばいとしんやと言います、コユキさんに初めてお会いしたのはこの店のアルバイト面接に来た日です」

 それから馬糸はコユキに出会ってその心根の優しさの一端に触れ、彼女の家まで付いて行ったことを正直に告白した。

 そしてその場で下着泥棒を発見して取り逃がし、コユキの下着だけを取り戻した事も。

 騒ぎに気が付いたコユキが警察に通報する声を聞き、疑惑を持たれる事を恐れて、その場から逃げる様に立ち去ってしまった事。

 その後、諦めきれずにコンビニの店長に頼み込み見合いを申し込んで断られた事。

 その事が切欠きっかけとなって、一旦は不採用になった店員の仕事に就く事が出来、今は充実している事。

 一連の出来事を流暢に語って聞かせた馬糸信也ばいとしんやは最後にこう締めくくった。

「始めてコユキさんを見かけた時の僕は、金髪にカラコン、服装や仕事も外聞や外見を気にしてばかりいましたが、コユキさんが野生のアライグマと心を通わせている姿を見て変わったんですよ…… 洒落た見た目や耳ざわりの言い台詞なんて、誰にでも表現できる薄っぺらい物では無くて、本当の美しさは心の中、ソウル、魂に宿るんだって、コユキさんは僕に身をもって教えてくれた、いわば恩人です! お巡りさん、先程は何やらコユキさんに嫌疑を掛けていたように見えましたが…… 若しかして…… 無いですよね? 見た目や話し方とかで先入観を持っているなんて…… まさかですよね?」

「ぐっ……」

 馬糸は短く溜息を吐いてから言葉を続けた。

「ふぅ、良いですか? お酒を買いに来る彼女の叔母様に伺ったんですけどね、今彼女は幸福寺というお寺で暮らしているらしいんです、でもね、毎日この実家近くに通っているんですよ? 一日に二回、毎日です…… 雨の日も風の日も酷暑日も氷点下の日でも休むことなく、アライグマ達に餌を与えに通ってくるんです、まあ、たまに背が高い坊さんが来る事も有るんですが…… そして一年半ほど前のあるタイミングから、何故か彼女は餌を食べているアライグマたちにひざまずいて平伏しているのです! まるで、彼らを可愛らしいおもちゃの様に購入し、飼い切れなくなってゴミの様に捨てた我々人間の罪を代わって詫びているかの様に……」

「……」

 ポリスマンは首を項垂うなだれて無言で聞いたままだ。

 馬糸は畳み掛けるように言った。

「お巡りさん、先程貴方は言いましたよね? ニートがどうとか、コドオバがなんとか…… お仕事柄疑ってかかる事も大事なのかもしれません、犯罪を未然に防ぐには必要なのでしょう…… しかし、それも過ぎれば物事や目の前にいる人間の本質を見誤る事にもなりかねない、そうは思いませんか? お巡りさん、彼女の助けを求める声に耳を傾けて下さいませんか、外見や彼女の社会的立場に対して先入観を持たずに向き合って下さい、お願いします! コユキさんは心の奇麗な女性です、テロリズムや破壊活動に参加するような人物では無いと僕は信じています、どうか、どうか、お願いします」

「分かったよ、幸福寺に同行して話とやらを聞いて見よう…… 但し、君も一緒に同行して貰いたい! 店長さんに言って来てくれるかな?」

 馬糸信也は嬉しそうな顔で答える。

「っ! は、はい! ありがとうございます! 少し待っていて下さいね? 店長ー、店ー長ーっ!」

 店に許可を貰いに駆けていく馬糸信也の背中を見つめながらコユキはポリスマンに言う。

「なんか色々言ってたけど早口過ぎてほとんど分からなかったわ」

「本官も同様だよ」

「それなのに話を聞いてくれる気になったの?」

「あそこまで熱くされちゃったらね、話を聞く位なんでも無い事なのに…… ムキになっちゃって申し訳なかったね、コユキさん」

「お巡りさん」

「本官は民生衛たみおまもるです」

「民生さん、でも何故彼も、馬糸さんも一緒に連れて行くのん?」

「ああ、あの下着泥棒の件って妹さん達から被害届け出ていたでしょう? 彼を疑う訳では無いですけど重要参考人って所ですからね、お寺に行っている間に逃げられても困りますから、上手い事言って近くに置いておこうと思いましてね、言わないで下さいよ、コユキさん」

「ラジャー、アイアイサーよ、民生さん!」

「お待たせしましたぁー! さあ、行きましょーっ!」

 ユニフォームを脱ぎ、満面の笑みで駆け寄って来る馬糸信也ばいとしんやの姿を見ながら、チラリと視線を合わせて小さく頷き合うコユキとポリスマン、民生衛たみおまもるであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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