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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
496.福の神

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

今回の話には、『434.骸骨』の内容が含まれております。
読み返して頂くとより解り易く、楽しんで頂けると思います。
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 ややあって旦那さんの方がようやく言葉を口にする。

「そ、そんな貴重な物を、い、良いんですか?」

 最早はっきりと正体が分かった我が祖父、因業いんごう坊主、いいや詐欺師の善悪は満面にいつくしみを浮かべて答えた。

「良いのでござる、本来なら三百万以上する『核』を使うのはあくまでも拙僧の気持ちでござるゆえ…… もしも気になると言うのであれば、これからも当寺を訪れてお参りなどしてくれれば、御母堂もお喜びになるであろうから是非お越し下され! あとはお知り合いやご近所さん、それとSNSなどで当寺の事を拡散してくれると助かるのでござるが…… いい? もう一度言うでござるよ? SNSで拡散でござるよ! SNS拡散! オケイ?」

「は、はいっ! SNS拡散、約束します!」

「私も婦人会の仲間にも拡散させます」

「理解してくれて嬉しいのでござる、では、御覧じろ! リライフッ! 甦れ、再びの生命をっ!」

 大仰に叫んでいるが、何のことは無い、お内裏様の衣装の中にポトンと魔核を入れただけである。

 夫婦はすっかり騙されてしまっていたので、奇跡の瞬間を見逃すまいと息を殺して人形を凝視している。

 スック!

 善悪がお内裏様を本堂の床に置いた瞬間、立ち上がり夫婦に向き返ったは言葉を発したのである。

「お前達ありがとう! お陰で自由に動けるようになったよ、ありがとう、ありがとう」

 言いながら何度も頭を下げる雛人形の声や話し方は亡母と違っていただろうに、夫婦は互いの手を取り感動の涙を流し続けている。

 善悪が庫裏の方に向かって声を掛けた。

「おーい! お客様にお茶のお代わりをぉ!」

 すると、まるで声が掛かるのを待っていたかのように淹れ立ての緑茶が入った湯呑と、人数分の茶菓子、人形焼きを持った編みぐるみや雛人形達がしずしずと行列を為して入って来たのである。

 人形達は、まだ目を見開いてアワアワしている夫婦の前にも茶と菓子を置くと、お内裏様を伴って庫裏の方へと去って行くのであった。

 呆気に取られながらも心を落ち着けようと緑茶を啜る夫婦に善悪が言う。

「どうでござるか、静岡のお茶は?」

「は、はい、とても美味しいです」

「ええ、いい香りですねぇ」

「ささ、お菓子もどうぞ、でござる」

「うん、これも美味しいですね! 外のカステラはさっぱりしていて中の濃密なこし餡との相性が抜群ですよ!」

「まあ、本当に美味しいです、これならいくらでも食べられそうです、あ、失礼しました、催促ではありませんよ」

「ははは、どうぞお気になさらずに、それ程気に入ったのでしたら境内の饅頭屋とお茶の詰め放題のブースで手に入れられますので、どうぞ覗いて行って欲しいのでござる! どちらもお得ですので、超おススメでござるよぉ」

 夫婦が視線を合わせて頷き合ったのを見て、善悪とアスタロト、バアルの三人が立ち上がり、背後に控えたイーチが言った。

「では、どうぞ境内の散策をごゆっくりお楽しみくださいませ、わが師は多忙故これで失礼させて頂きます」

 夫婦は慌てて居住まいを正して、歩き去る四人に対してもう一度深々と頭を下げるのであった。


 ふむ、なるほどね、これがコユキが言っていたガッポリ儲かるの正体か……

 極小魔石の依り代と現金を同時にゲットとはやるじゃないか、流石は私の祖父母だな。

 二人揃ってグフグフ笑いながら居間に向かって歩く姿からは罪の意識など微塵も感じられない、頼もしい!

「今日は三十万が六組だったでござるよ、笑いが止まらんとは正にこう言う事を言うのでござるなぁ♪」

「なはは、まさかこれ程バズるとは思わなかったわねん、運気が上がって来てるのを感じるわん♪」

「ね! これで非課税なんだから堪らないのでござるよぉ! イヒヒヒヒ♪」

「だわね? うひひひ、うひひひひぃ!」

 邪悪だな…… 狂ってしまったのであろうか? いや元々こんな感じだったな~。

 ああ、そうか! 一年前のヘルヘイム遠征の時、シヴァの異常なまでの強さを目にしたコユキと善悪、アスタロトは思ったんだったな。

『もうこいつを揶揄からかうのは止めて置こう』

だったか。

 きっとそれ以来大切に扱われているのだろう。

 それならばこの金運? まあ景気の良さも頷ける。

 何しろ大黒様だからな、一緒に暮らしているのが福の神なのだから当然の事と理解できる。

 ホクホクしていた善悪がコユキに言った。

「あ、そうそう、遂に明日ヒュドラ君用の依り代、二メートルの三つ首バージョン、フトアゴヒゲトカゲ首長くびちょうマシマシスペシャルが結城ユウキさんの会社から届くんだってさ、さっき連絡が入ったのでござるよ」

「ああ、それこそ三十万掛けた奴よね? 楽しみだわね 色は?」

「うん! 楽しみなのでござるっ! 勿論、赤一択でござるよ!」

「ふうん」

 何か自然な会話をしている……

 一年間の同居生活で二人の関係にも多少の変化が有ったと見える。

 パーティーメンバーとか幼馴染では無く、自然と家族みたいな感じになって来ている様である。

 まあ、明日のオリジナル巨大フィギュアは私自身にとっても楽しみな案件だ。

 そこまで時間を飛ばして観察してみるとするか。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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