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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
241.現世益

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 善悪がモゾモゾしながらコユキに話した内容は大体以下の感じであった。

 午後不意に訪れた相談客が善悪に望んだのは、所謂いわゆる現世益げんせえき』ってヤツであったのだ。
 訪問して来た老女が言うところによると、今朝なが年月としつき頑張ってきてくれた昭和生まれの炊飯器が…… 遂に召されたらしい……
 んで、そのおばあちゃんは善悪の顔を見るなり図々しくも言ったのである。

「おしょっさま! 米喰えなくなったずらぁ! 買ってけろ、んなぁ、ワシに炊飯器買ってくれズラァ! おっしょっさま! ず、ズラァ!」

聞いていた善悪の感想は、ズバリこうであった……

 ――――何言ってんだこのババア! 大きい声で言えば何とかなるとでも? お寺は便利屋さん(無料)じゃないでござるっ! とは言え……

「分かり申したでござるよ、んっと、お婆ちゃんの家には土鍋が無かったでござろうか? ん? んん?」

ババアは答えた。

「どなべ? んまぁ、爺っさまがイギテタゴロは一緒に囲んだ土鍋はあるだどもぉ、それがなんだ?」

 善悪がわざとらしい笑顔を浮かべて言った。

「なるほど! それは重畳ちょうじょう! んであれば、その土鍋でお米を炊いたら良いのでござる! 始めチョロチョロ中パッパ、じゅうじゅう言ったら火を引いて、ひっと握りのわら炊いて、赤子泣いても蓋とるな! でござるよ! 知らないでござるか? ん、んん?」

「はっ、おしょっさま! いまの言葉ってば、ワスが嫁入ってきたとき聞いた言葉さぁ~、んだでば、やってみるズラぁ~」

ババアは一旦帰ったのであった。


善悪はコユキに言った。

「ナンカ、お寺を便利屋みたいに考えている人々が増えてきて正直困っているのでござるよ…… 何か買ってくれとか変な相談が多くて困ってしまうのでござる……」

「へ、へぇ~」

 コユキは思った、やべぇ、これ絶対言い出せないパターンじゃないか? と……
 そんなコユキの様子に気付く事も無く善悪は続けるのであった。

「まあ、平時ならそんな図々しいお願いも笑ってさとして終わりでござるが、今はそうはいかないでござろ? 我々密教の僧侶にはそんな余裕は無いのでござるよ! んね?」

 コユキは慌てた感じで聞くのであった。

「え? 密教って…… 善悪ん家の宗旨しゅうしだよね? 何か、あんの、他の宗旨との違いとか?」

 善悪は珍しく人相を凶悪にして答えたのであった。

「んー、ほら、最近良く聞くでござろ? 三密を避けろだ、密はダメ! だとか…… そもそも三密って僕チンたち密教の教えから来ている言葉でござる! 印によって行動を密にし、真言を口にする事で話を密にし、仏性に寄り添う事で心を密とするのが我々、真言の沙門でござる…… コロナとか関係無い筈なのに、風評被害で避けられ捲りでござる! お賽銭箱空っぽ記録更新中なのでござるよ…… 良い迷惑でござる…… トホホ…… とまあ、今この時、わが幸福寺は危急存亡のときを迎えているのでござるって話しでござるよ、んで、コユキ殿の話って何でござるか? パーティーメンバー、いやリーダーとして出来る限りの協力はするのでござる! お金は無いけどね、何でも遠慮なくいって欲しいのでござるよ! ねえ、何の用?」

 言える訳がない……
 これがコユキの偽らざる気持ちであった……

 まさか、リリィ小池の、

「三密を避ける! これが、皆様にお願いしたい事でございます!」

 がこれ程地方の一寺院に経済的影響を与える事になっていたとは、本人すら気が付いていない事であろう。
 ナンカ飲酒してる奴がコロナの原因だとか、外飲みもダメだとか、終いには家飲みもダメだとか、あの人ムスリムみたいだなぁ~? なんて考えていたコユキに善悪が重ねて言った。

「なんか愚痴っぽくなってしまったでござるが…… コユキ殿! 何の用でござるか?」

 コユキは反射的に答えるのであった。
 い、言えない、パソコン買ってぇ♪ なんて口が裂けても言えるはずが無い!
 故にコユキは答えたのであった。

「えっ? 何の用って…… えっと、あの、そ、そうよ! 善悪の顔が見たかったから来たの! うん、それだけよっ!」

 その言葉を聞いた善悪は、急激に顔色を真っ赤に変えながら聞き返すのであった。

「え、拙者の…… か、顔でござるか……」

 コユキは善悪の顔色の変化に全く気が付かないままでそっぽを向いたままで答えるのであった。

「そっ! アンタの顔も見れたし、今日は帰るわね! お邪魔したわね! …………またね、善悪」

「えっ! か、帰るの? そうでござるか…… 今日は嬉しかったのでござる、ありがとうコユキちゃんっ! で、ござる!」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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