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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
379.鶴の恩返し

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ここまでのあらすじ

 東北秋田新幹線の、安定した微かなかすかな微動の動きにプルプルと皮下脂肪を揺らせながらコユキは言うのであった。

「んねぇ? 善悪ぅ! ピッツァってさぁ、もう無いのん!」

善悪は呆れた顔で答えるのであった。

「もう無いよぉ! 殆どほとんど食べたのコユキ殿でござろぉぅ? んもう、嫌になっちゃうよぉ!」

コユキは考え込む様に下を俯いてうつむいて言葉を放った。

「ねぇ、善悪ぅ…… 若しかして、このピザ作ってるレストラン…… お店の方に行くべきだったんじゃないかな?」

善悪はため息を吐いて答えたのであった。

「そう言えば美味しそうな洋食の匂いがしていたのでござるが…… んん、そう気が付いたのなら…… 何で言わなかったのん?」

コユキは馬鹿丸出しで答える。

「んだって、善悪が言わなかったから…… さっぁ~」

だってさ……

 コユキ、四十歳の春、逢魔時おうまがどき……
 東海道新幹線に乗り換えて残念な事をいつも通りに無かった事にしようと決めて尚、未だ残る後悔の念……

 後悔して、後悔したからもう終わり、でも未だ燻るくすぶるがっかり感、何か大事な事の気がしたコユキは、次に岩手に行った時には絶対リンデンに寄って、美味しい料理を堪能してみよう、全品コンプリートしよう、そう誓うのであった……

 新幹線は静かにとっても静かに滑るように静岡駅に停車するのであった。

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 東京都、調布市、多摩川にほど近い住宅街にコユキの姿を見る事が出来た。

 二十三区外の市部とは言え、複数の京王線が交わるこの町は、世田谷区と見紛う程の発展を遂げており、市井しせいのエナジーに溢れる居酒屋や、飲食店の類はコロナ禍の中ですら、あり得ない盛り上がりと力を誇示し続けて、首都東京の生命力と人々の行政に対する抗おうという意思、リリィは今回も勝ったかもね、んでもアタシには関係ないよぉ! 的な、力強さをコユキに見せつけていたのであった。

 コユキは大きな塀に四方を守られた邸宅を見上げながら呟くのであった。

「はあぁ~、ここら辺でこの威容かぁ…… どんだけ悪い事したらこんな豪邸が建てられるのやらねえぇ~」

 言いながらテクってようやく辿り着いた玄関、いや正門に設えしつらえられた豪華なインターホンを押してこの家の主の返事を待つのであった。

 今回のターゲット、アーティファクトは『鶴の恩返し』に登場するあの献身的な鶴が残した尾羽である。

 『鶴の恩返し』とは、罠にはまってしまい困り果てて絶望の深淵しんえん、アビスに捕らわれた一匹の鶴が、偶然通りかかり罠から逃がしてくれた見ず知らずのジジイに、助けてくれた恩を返すためとは言え、図々しくもババアと暮らす家に押しかけ、あろう事か住み着く宣言、しかも人間の娘の姿で。

 反物たんものを織ってやるから糸を買って来いなどと意味の解らない要求をした上で、元の糸とは全然違うキラッキラの反物を織り上げ、こいつを売って次の糸買って来いと爺に対して再度の要求。

 二度に渉る強引な要求にも忍耐強く辛抱していた爺と婆であったが、流石に不自然すぎる反物の鮮やかさに疑問を持つに至り、見るなと言われた作業風景を出歯亀でばがめしてしまい、それに気が付いた鶴にキレられてしまう。

 助けてもらったお礼に人間に化けて布を作ってたんだけど、約束破るとか、もう冷めたわー、と言った感じで飛んで帰ってしまった、後には美しい尾羽が一本残されているのみであった、てなお話である。

 なるほど、

 人間の娘に化けて?
 翼とあの細長い足ではたを?
 モノトーンなのに鮮やかな反物が?

 考えてみればみるほど、鶴ではなく魔法使いや精霊、しくは悪魔っぽい話じゃないか…… 

 何が何でも恩返しを、七生報国しちしょうほうこくいや、七生報爺しちしょうほうジジイで強引に押し付けてくる辺りに独特なドグマによる右翼思想っぽいテナスィティを感じるし、恩返し途中なのにバレたからってトンヅラとか、中々に邪悪な話じゃないか?

 とはいえ、ここに辿り着くまでは今までのスプラタサーチ以外の手段に頼らざるえなかったのである。

 これまでクラックを探して教えてくれていたオルクス曰く、

「モウ、ナイヨ、ゼンブ、トッタ、ヨ!」

と、日本国内に他のクラックが存在しない、所謂いわゆる規定終了打ち止め宣言赤玉コロンを言い渡されたのであった。

「そっか、打ち止めか…… アーティファクト探しも終りね…… ってことは面倒だけどバアルやニセルキフェルの謎に向き合う時って事なのね…… はてさて」

 首を傾げるコユキに善悪は首を横にフリフリしつつ言うのである。

「いいや、まだまだ打ち止め終了とはいかないでござるよ、即時解放ジャンジャンバリバリ継続でござる! その為にゲットした『傘地蔵の傘』があるでござろ?」

「え? そう言えばあの傘って何に使えるの?」

 善悪は自信満々に胸を反らして答えるのであった。

「帰ってきてから色々実験したのでござるが、目的の場所に迷わず辿り着ける効果でござるな、因みちなみに探し物にはうってつけのアイテムでござる! ほれ!」

 言いながら開いて見せた善悪のてのひらには、黄色のケースに上半身を覆われたブルーの人形が乗せられていたのである。

「これは?」

「拙者が子供の頃に無くしてしまっていたミクロ○ンの後続小型シリーズ、フード○ンでござる、因みちなみにこれはH701ハンスね、吾輩がハンスに会いたいと願って歩いているとママンの使っていた部屋の押し入れに辿り着きそこで発見したのでござるよ、どう、凄いでしょ?」

「へぇぇー!」

 コユキもこれには感心一入ひとしおで、その後どんな昔話がふさわしそうかトシ子と三人で検討を始め、最終的に第一回目として『鶴の恩返し』を選んだのであった。

 最終候補まで争った話は『コブ取り爺さん』であったが、万が一二つのコブが追加されたら……

 行きたい行きたいと駄々をこねるコユキであったが、善悪とトシ子の必死の説得に折れる形でここ調布市に尾羽を取りに赴いたわけである。

 オオ太りおばちゃんのもっと肥えたい願望はいったん潰えたついえたのであった……

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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