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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
607.レキシコン

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 懐かしい二人と話していると言うのに女子高生に言葉を切られてしまったコユキである。

 しかし、先に話していたと言われてしまっては、順序を守ったり、表面上の礼儀を重んじる日本人としては譲らざる得ない場面であろう、そう判断したコユキは口をつぐむしかなかったのである。

 女子高生が言った。

「ねえ、知り合いにも会ったんでしょ? もう腹をくくって観念しなさいよ、ギブよギブ、そうしなさいよ!」

「くぅ、しつこいな、オンドレぇ……」

「兄貴ぃ」

 このやり取りを聞いていたコユキは思った。

――――ふむ、なにやら揉めている様だわね…… んであの娘が虎大に何かを認めさせようとしていて、虎大はそれを拒んでいると、なるほどなるほど、しかし残念だわね、一応注意と言うか、教えておいてやるか……

「お嬢ちゃん、腹をくくるってのは不退転の覚悟を決めるって事で、観念するってのは諦めるっていう意味よ? 真逆なのよ? 高校生らしいけどちゃんとオベンキョもしようね? 身体ばっかり大人になってもおつむが空だと恥ずかしいわよ? このままだと中間搾取を中抜きとか言っちゃうおバカさんになりかねないわよ?」

「えっ…… 何よおじさん! 口を掛けないでよ」

「口を掛けるは事前に根回ししておく時に使うのよ? 今使うんだったら口を出さないで、しくは口を挟まないで、だねぇ、残念だわー、さっきの腹で言うと…… あれ? 腹を決める? は、ちょっと違うか、んじゃあ腹を据える、も違うわね…… 何かあったかな? 腹かー腹、腹ぁ……」

 女子高生は顔を真っ赤にしながらでは有るが、頑張って大きな声を出した。

「あのねぇ、おじさん! おじさんの知り合いのこの火傷の男はねぇ、電車の中でアタシの体を触ったの! 痴漢なのよっ! 言葉の間違いなんかどうでも良いのよっ! アタシは汚されたのよっ! 一方的で独りよがりの汚らしい性欲にね! 知り合いなら何とか言ってみなさいよ!」

 コユキは驚いた顔で言った。

「一方的と独りよがりって同じ意味よ、そこは自分勝手なにした方が良かったわね、気を付けてね! ってか、虎大、アンタ本当にそんな事したの! 女の敵じゃ無いのよっ! 正直に言いなさい、嘘ついたら許さないわよっ!」

「やってねーよ! そもそもあんなガラガラ過疎ってる車内で痴漢とかしでかすとか、どんなチャレンジャーなんですかぁ! 普通に無理でしょ? 俺そんなに馬鹿に見えてるんですかぁ? いや、ショックだわぁ、軽く傷ついたわぁ!」

 コユキは端的に答えた。

「なるほどね、確かにアタシが乗った時もガッランガッラン、他に誰もいなかったわね、あっ訂正っ! ババアが一人いたわね、ゴメンなさい婆、忘れてないわよっ!」

 竜也がコユキの右肘を抱えながら言う。

「そ、そうなんですよぉ、お姉さんっ! 兄貴は只、電車内でお金を数えていただけなんですよぉ! 両手を使って何度も何度も…… ほら? 頭が良く無いでしょう? 兄貴って! んで何度も何度も言っていたんですよぉ! 『ほおぅ、季節雇用の俺達に十万円も臨時ボーナスとは豪気な話じゃないかぁ! 見ろよ、竜也っ! へへへ、大量だぜぇ? 十万円だぞ、十万円!』、てね? その直後でしたよ、その女子高生がケツを触られたとか何とか言って来たのはぁ!」

 サンクス、竜也! 君の言葉が割と説明的で助かったよ…… この私、観察者でも察せられたのだから、鋭いコユキが分からない訳無い案件だったようである。

「そっか、それでこの娘に何て言われたの? 竜也」

「は、はい、兄貴がそいつの尻に触れたとか何とか大騒ぎしまして! 穏便に済ませて欲しければ十万円寄こせって、そう言った後、無理やりこの駅で下車させられたんですっ!」

「ほう」

 ゆっくりと女子高生の方に向き直ったコユキは言う。

「なるほどね、なるなるなるなる、だわん…… ねえ? お嬢ちゃんっ! 腹だっけか? そう腹よね腹ぁ、ぴったりの慣用句を見つけたわよぉ、それは『痛くもない腹を探られる』ねっ! それかアタシの正直な気持ちぃ、『腹に据えかねる』っ! これしか無いわよぉっ! どうしてくれんのっ! 冤罪被害駄目っ、絶対よぉっ!」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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