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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
254.地母神(ガイア)

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 何故か具合が悪くなってしまったツミコさんの挙動に全く気が付く事も無く、コユキとトシ子婆ちゃんの言い争いは続いていたのだが、ついにコユキが禁断の言葉を口にしてしまう。

「キィィっ! この分からず屋のクソババアめ! こうなったら実力行使よ! 何の意味も無い迷信だって事を、その老い先短い体に刻み込んでやるわ!」

 ババアもすっかりやる気のようだ。

「面白い事を言うじゃないかい! 小娘が! 返り討ちにしてやるよ! 年季の違いって奴をその可哀想な体に教えてやろうじゃないかっ!」

 最後の言葉を言い合うと、最早一言も発さずに玄関の引き戸をガラッと開けて庭先に出て行ってしまった。

「ねえ、やばいんじゃないの! 止めようよ!」

「えぇ~、大丈夫でしょぉぅ~、あたし達がぁ、怪我するのがぁ、オチだってぇ~」

「ま、まあね……」

 リエとリョウコは我関せずを決め込んだようだ。


土槍ソルスピア

 トシ子の周囲に広がる家庭菜園(プロ仕様)から土が浮き上がって槍の形を成していく。

解放リリース

 言葉を発すると同時に、十メートル程離れた場所で構えを取るコユキに向けて、土塊つちくれで作り上げられた鋭い穂先が襲い掛かった、その数二十一!

「ふっ! 散弾ショット!」

 コユキの前面に不可視のシールドが張られたかの様に、透明の防御壁が展開し、向かってきた土塊つちくれの槍を、それを打ち出した張本人、トシ子に向けて弾き返したのである!

土壁アースウォール

 弾き返された土槍ソルスピアは、トシ子の前に展開した土の壁によって無効化されてしまった。
 コユキは二本のかぎ棒の内、右手担当の『スプラタ・マンユ』を手にするとスキル発動の条件、言葉を発するのであった。

聖魔弾スリング

 直後打ち出され続ける、自動小銃の弾丸の如き気弾の雨、土壁アースウォールに身を隠しながらのトシ子の声が響いた。

「へぇ、神聖銀を使うのかい? 別に良いけどねぇ、こちとら丸腰の年寄りだけどねぇ~」

 聞いた瞬間、コユキは気弾を止め、かぎ棒をツナギの胸ポッケに仕舞うのであった、たぶん、プライドの問題なんじゃないかな?

「いいね、コユキ! んじゃぁ、こんなのはどうだい? 『土埃ダスト』」

 コユキとトシ子の間にあった空間全体を覆い隠すように広がり捲る土煙り……
 さしものコユキも両目を細め、息を止めざる得なかった。
 一秒経過、コユキの目には煙の向こうに佇んでいる、ババアトシ子の姿が薄っすらと浮かび上がって見えた。

 今だっ!

 そう思ったコユキは、確実な勝利を目指して、背後から襲い掛かるべく、最速のスキルを口にしたのである。

加速アクセル ? ?? って、な、なんなのぉ!?」

 コユキが叫びを上げたのも当然であった、アクセルでトシ子の後ろに回り込もうとしたコユキの両足は、地面から生えた二本の腕によってガッシリと掴まれ、完全に動きを封じられていたのだから……

「くっ! 『土塊の手クレイハンド』か? ならっ!」

 コユキは自身の足を捉えた両手に構う事無く、消えつつある土煙の彼方に佇む、祖母トシ子を見つめながら、かかと僅かわずかに浮かべた後、勢い良く地面に打ち付けるのであった。

ドンっ!

 瞬間、周囲の小石や砂利が反動で浮き上がる、その数、優に数百を超えている。

散弾連撃コンティショット

 前面に浮き上がった数百の小石や砂利がありえない速度で土煙の向こうに佇む、祖母トシ子に襲い掛かった。
 一秒ほどの時間経過の後、祖母トシ子と見られたその存在を打ち抜き、その場でぼろぼろと形を崩して行ったのである。

っちまったか…… お婆ちゃんゴメンね…… んでも譲れないものはやっぱり譲れないのよぉ! 許してなんて言わないわ…… 私が代わりに背負っていくわ、お婆ちゃんの人生、その求めた物をっ!」

「……へぇ、背負ってくれるのかい? アタシを? ははは、こりゃ歩かなくて楽になりそうだねぇ? ねえ、コユキ!」

「うわぁぁぁー、わわわわわぁぁぁー!!」

 土中を移動して来たのだろう。
 コユキの足元から姿を現した祖母トシ子は、両足首を掴んだまま、重たい、それこそ超重量級のコユキを逆さに持ち上げたのであった。
 土煙が殆どほとんど消え失せた視界の先には、先程コユキが打ち抜いたトシ子っぽい泥人形が、崩れながらもコユキに哀れみの視線を向けているのが見えた。

 コユキは戦慄を覚える、これが、先々先代の『真なる聖女』、土の精霊ノームの友と呼ばれ、独自の工夫と戦略によって他の追随を許す事のなかった、最強の聖女、『地母神ガイア』の渾名あだなを受けた自らの祖母、トシ子の戦い、その物であったのだから……

――――くっ、か、格が、ち、違うっ! 最早これまで、かっ…… ナガチカ、カツミ、そしてマサヤ…… ありがとう、そして、さようなら……

 地母神ガイア、ノームの友、トシ子は言った。

「殺しはしないよ、コユキ…… この手足だけ、引き裂いてその自由を奪うだけさね、ゴメンしてね、んじゃあさようなら、ってかぁ!」

 トシ子は狂っていた、ツミコやコユキにも見られる聖女独特の軽い人格障害同士の戦い、その真っ只中に置かれた今、正に狂気の度合いを示すバロメーターは限界突破の頂点MAXだったのである。

ゴロンゴロン!

 コユキの足元に転がり込んで来たのは茶糖家の玄関にずっと前から飾られていた福島、会津名物のアカベコ、首をフルフルしている郷土玩具が、その手に持った小さなナイフでコユキの右手を切り抜いて、スキルを高らかに宣言するのであった。

転移テレポーテイション」 ドロン

 コユキは茶糖家の庭からその姿を消すのである。
 確りしっかりと掴んでいた足首が自身のてのひらから消え去ったのを見つめたトシ子は呟きを漏らす。

「さっきのウトゥックの仕業だね…… まあ、どのみちそう遠くへは転移出来ないだろうに…… となれば、向かった先は」ニヤリ

 そこで一旦言葉を止めると、慣れた手つきで車庫のシャッター開き始めるのであった。
 そして自らの愛車、スズキキャリー、カラーノクターンブルーパールのドアを開け、付けっぱなしのキーを回してエンジンを始動させる。

 勢い良く走り出した軽トラは、公道ではなく裏手の茶畑の急斜面を苦も無く踏破して行くのであった。  
 四輪駆動の軽トラは、こと斜面の狭苦しい農道においては、無敵の王者、スーパーカーに姿を変えるのである。

 こうして、最短距離で目的地、幸福寺へと辿り着いたトシ子婆ちゃんは、またもやキー付けっぱなし、ロックもせずに愛車から離れ、大きな門をくぐって広い境内を見回すのであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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