見出し画像

堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
242.二次元半 (挿絵あり)

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

 とぼとぼと大茶園のど真ん中、茶糖家に帰ってきたコユキは疲労困憊ひろうこんぱい、絶望の只中にあった。
 よろよろとした足取りでダイニングに辿り着いたコユキはたった一言を口にするのが精一杯であった。

「ご、ご飯を……」

 この日ままならない現実を味わい続けたせいだろうか、それとも単純なストレスによるものか?  
 コユキは夕食にいて過去最高の大食い重量記録を叩き出したのである(十七キロ)。

 リエが仕組んだ嘘つき大作戦から一月が過ぎていた。
 コユキが最近活発になった週一配信を受けられなくなって、早、四回目のスルーを数えた頃……

 日々のストレスでいつも以上に四食(夜食込み)プラス三度のおやつを食べ捲っていたコユキは自分史上最大に太っていた。
 勿論日に七回食べる位で我慢できる訳も無く、狂乱の迷宮ロスを耐え切る為に今迄やった事の無い努力もして来たコユキであった。

 具体的には、大き目のチラシの裏に、絵心も無いのに自分なりに『ナガチカ』や『カツミ』『マサヤ』の姿を書いてみてガッカリしたり、勇気を出して最寄の人口比率高めの駅に出掛けては、なんちゃってBLボーイズを探してみたりしていたのであったが、悉くことごとくがっかりの結果に終わっていたのである。

 幽鬼のようなコユキがお昼ご飯を求めてフラフラとダイニングに踏み込んだ時、リエがばっと広げたお見合い写真を見せながら大きい声で叫んだ。

「ねえ! ユキ姉! 見てよっ! この人、ナガチカっぽくないかな?」

 完璧なタイミングとセリフで開示されたお見合い写真をコユキは食い入るように見つめて言ったのである。

「ホントウダネ、マンマ、ナガチカジャン!」

 よっしゃ! リエはこぶしを強く握りこんだのであった!

 これがリエがあの日、パソコが死んだ日に企んだ作戦が実を結んだ瞬間であったのだ。
 作戦の名前は『急に三次元が無理だったら、ずは二次元半だってばよぉぅ』であったのである。

 いきなり生身、所謂いわゆる三次元は大きすぎる望みだろう、そう考えたリエは取り敢えず二次元の配信を阻止した上で、中間に当たる写真、二次元半に興味を持たせるのだ、と、作戦を方向転換したのであった。
 流石は善悪を除けば、この界隈で策士と呼ばれて恥じぬリエならではの謀略ぼうりゃくといって良いだろう作戦である。

 彼女が計った謀略の結果、似ても似付かぬ、ちっと可愛目の若者をコユキは、あの可愛さの極致、ナガチカと見紛うみまごうてしまったのであった。

 げにおそろしきは軍師の計略のたえと呼ぶべきだろう、むうぅ! リエ婆ちゃん、恐るべし!

 その日から、お見合い本番の今日までの一ヶ月間、リエによる洗脳は休む事無く続けられてきた。
 一日に大体十回位、無理やり見合い写真をコユキに見せては『ナガチカ』だと復唱をさせ続け、夜布団の中でムニャムニャ言い始めたタイミングで睡眠学習宜しく、

「私はナガチカっぽいお医者さんのお嫁さんになる、私はナガチカっぽいお医者さんの――――」

と数十分に渡って囁き続けたのである。

 その期間実に一月間、三十日間家に帰る事もなく我子と供に実家に帰省し続けるという中々の執念を見せたのであった。
 リエの、やり始めた事は何が何でも完遂する! といった頑固な性質が窺いうかがい知れる一例と言えるだろう。
 因みちなみにリョウコは週末だけ顔を出しては、朦朧としたコユキに笑顔で写真を見せ続けるリエの姿を見て、

「も~、良くやるよねぇ~」

と、ニコニコしていたのであった、一番まともだ。

***********************
拙作をお読みいただきありがとうございました!


この記事が参加している募集

スキしてみて

励みになります (*๓´╰╯`๓)♡