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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
442.破滅のブレス

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 岩の影に滑りこんで来たイーチは言った。

「こ、恐かったぁ~! 死ぬかと思いましたよぉ~!」

 死んでるんじゃなかったのか? 何しに行ったんだコイツは……

 そう思ってしまったコユキであったが、イーチの姿を見て大慌てで言うのであった。

「ちょ、ちょっとイーチ君、アンタ腕が! 無くなってんじゃないのぉ!」

 その言葉通り、避け切れなかったらしいイーチの右腕は消え去っている、のみならず肩の辺りから胸に向けて、現在進行形でジュワジュワと音を立てて浸食中、破壊され続けているのであった。

 自分の胸を見ながらイーチが言う。

「うおぉ、やられたー! って事ですね、これは」

「あわわわ、ラ、ラマシュトゥ! これ治して! でござるよぉ!」

「はい、いや、ええと…… これって破滅のブレス…… 一種の呪いですわ! 治せません! ど、どうしよう」

「『魔力崩壊カタストロフ』! だ、駄目か……」

「『支配者バシリアス』! 『静止せよ』 クっ! 止まらん」

「イーチ君……」

 絶句するコユキに対して、イーチは驚くほど落ち着いた声で語り始めたのである。

「お供出来るのはここまでみたいですね、残念です…… んじゃご報告を済ませておきますね♪」

「え?」

「イーチ君! もう良いんだ、良いんでござるよ! もう喋るんじゃないっ! でござる…… うっうっうっ」

 コユキの驚きも善悪の静止にも動じずに話を続けるイーチであった。

「まあまあ、あの位置まで近づいて確認できた変化は二つでしたね、一つは暴れまくる首の中で一つだけ、コユキ様が団子を食べさせた個体でしょうか? 落ち着いた表情でこちらを不思議そうに見ていましたね、それはもう純粋そうなつぶらな瞳でしたね」

 言っている間にもイーチの体を構成する骨は崩壊を続けていた、大体胴体の半分くらいだけが残った状態である。

「時間があまりありませんね、続けて二つ目の変化について話しましょうか? それとも場のムードを和ませる為に一曲歌いましょうか? とはいっても懐メロ専門ですが……」

 コユキは二千年以上前の素朴な感じの歌や楽曲に少なくない興味を覚えたが、僅かわずかに残った常識力をフル動員させて我欲を抑え込んだのである、立派だ。

「歌わなくても良いわよイーチ君! 善悪が言う通り、もう話さなくても良いの、良くやったわ、流石は英雄王よ、ダキアの誇りだわ!」

 コユキの頭の中に出会ってからここまでのイーチとの思い出が、一つ一つ浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返していた、大体、ウザい煩い調子良い辺りをグルグルしていたが、如何いかんせん出会ってからが短過ぎたので、あんまりバリエーションが無い事だけが残念であった。

「では歌いませんね、もう一つの変化って言うのは私自身酷く意外に感じる物でした」

 ほう、なにやら核心めいた内容らしい、コユキや善悪も同様に感じたのだろう、話すな発言の後だと言うのに身を乗り出して聞きたそうにしていた。

「その変化とはアスタ様が立ったまま居眠りをしていた事でした…… 驚きましたよ、あの人凄い神経してますね? ウトウトじゃないですよ? 熟睡でしたよ、しかも鼻提灯はなちょうちん付きで! いやー、無神経ってやつですかね? 恐れ入りましたね、あれには」

 ゴミ情報であった……

 コユキも善悪も肩を落としてがっかりの風情である。

 そうこうしていると、いよいよイーチの崩壊は進みに進み、最早頭部のシャレコウベを残すのみとなっていたのである。

 別れの時が近づいていた……

 下らない話だったとは言えイーチがコユキと善悪への信仰の証として貴重な、文字通り命がけで持ち帰って来てくれた情報である。

 ありがとうイーチ…… 私は君の事を忘れる事は無いだろう、永遠に……

 一方、気を取り直したコユキはこの一見意味の無い事柄に意味を持たせる為に熟考を始めるのであった。

――――あれね、アスタが立ったまま眠りこけてたって事は、ええと、うーん、ハッ! 疲れちゃった? って事かしら? うん、きっとそうだわん、まさか闘いの最中さなかで飽きちゃったって事は幾ら無神経で脳筋なアスタでも流石に…… ありそうだわね…… いやいやいや、疲れたって事にしないと、そこは! そう言う事にしたんだったら結構ピンチな状況なんじゃないの? という事はまずはアスタ救出を軸にして今後の戦略立案を進めるべきよね? んでも、なんだかそうじゃない、違う気もすんのよねぇ~、ふむ、これが数多あまたの命を預かる司令官の葛藤ってやつなのかな? しくは自分の発言の重さを知った上で、進言を躊躇うためらう事無き歴戦の参謀へと昇る階段に立ち塞がる重圧、所謂いわゆるプレッシャーってやつかも知れない、苦しい物ね、だけど、何れいづれにしても――――

「あのー?」

 コユキの熟考を破ったのは他ならぬイーチの声であった、コユキは言う。

「何?」

「そろそろ消滅しそうなんで、そのカギ棒でしたっけ? そいつでプスリとやって欲しいんですけど? このままじゃ本当に消えちゃうんで」

「ああ、そう言う~、なるほどね、えいっ! プスッとな!」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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