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【二章完結】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
476.シャバの空気 (挿絵あり)

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

「おやっさん、いやボウ、お勤めご苦労さんでござんすっ!」

「ボンっ! 大変だったなぁ、まあゆっくり体を休めるんだなぁ~」

「おかえりなさいマスター、大丈夫ですかぁ?」

 ゼパル、ベレト、ガープの出迎えを受けて幸福寺に帰って来た善悪は疲労困憊ひろうこんぱいの表情を浮かべた。

「大丈夫なの? 善悪ぅ! アンタ随分絞られちゃった感じじゃないのぉ?」

「う、うん、国家権力の凄まじさを知ったのでござる…… ってか、コユキ殿もアスタも、事もあろうかハミルカル君までバックレるとか! 些かいささか酷い、いいや酷過ぎるでござろうがぁっ!」

 そう、今を遡る事四日前のあの日、ニヴルヘイムに赴き命懸けの内偵に向かうスキピオに対して、コユキが持たせたのは『鶴の尾羽』であった。

 敵地に潜入して命を危険に曝すさらす配下に持たせることは当然だと言えるだろう。

 それはそうだ! そうなのだが……

 暮れていく夕方の中、入っちゃいけない湿地帯を、姿も隠す事無く、ずぶずぶ歩いて来た一行、コユキと善悪、アスタにハミルカルの四人は、簡単に山岳警察の監視員たちの御用となったのであった、善悪だけ……

 コユキは加速アクセルで姿を消したし、アスタロトも魔神らしく上空に逃げた。

 ハミルカルも土中に身を潜めて、自分と胸に抱いたバアルの魔核を守り抜いたのであった。

 ボーッとしていた善悪だけが確保されて、群馬県警からの厳しいお説教を受けていたのである。 

 大量に保持していた宝石っぽい石、まあ、魔核なのだが、それらが科捜研に送られた結果、只の四酸化鉛しさんかなまりだと証明されたことにって無事釈放となったのであった。

 コユキが重ねて聞いた。

「どう? かつ丼出た? これ喰って正直になれよとか言われたのん?」

 何でこのデブちょっとワクワクしているんだ?

 そう思いながら善悪は正直に言うのであった。

「いいや、質素な、限界ギリギリの監獄弁当だったでござるよ…… 本当の修行をした気分しか無いのでござる……」

 コユキが答えて言った。

「本当の修行…… 良かったわね♪ アタシも嬉しいわん!」

 内容を聞かないのはいつも通りであった、善悪和尚も小さい溜息だけを零していつも通りの風情に戻った。

 そして言ったのである。

「牢屋の中で整理整頓して来たのでござるが…… 取り敢えず、ウトゥックのラビスちゃんが目覚めるまでは、『静寂と秘匿を以って分かれ道を覆い隠す御方おんかた』達の祠を目指すのは無理だし、オンドレ君とバックル君の行方、カイムとタマちゃん達がどこにいるかも皆目見当が付かない状態でござるでしょ? まあ、いつもの如く行き詰ってしまったのでござるよ…… どうするでござるか?」

 コユキが溜息を吐きながら返す。

「それがね、善悪がこってりと絞られている間にこっちも色々あったのよ。 アタシ達が電車で帰って来たらシェルターに大量の悪魔が捕獲されていてね、プスプスやってみたら動物園の動物でさぁ、市役所と動物園に連絡したり、飼育員さんに回収して貰ったりしてドタバタしてたらネヴィラス君が戻って来てね、ニコールさんの眼球は無事見つけて来たんだけど、アリシアさんとラーシュさんの『永久死体』がね、なんと腐っちゃってたんだってよ、んで、そうなるって事は二人の魂が体に戻る事を拒否したって事なんだってよ、どう? 生き返る機会をみすみす棒に振ったって事でしょ、これ? なんて言うか、謎が謎を呼ぶってヤツじゃない? ミステリーよミステリー、ね?」

「うーん、謎は増えるけど解決の糸口が一向に見えて来ないでござるな…… コユキ殿、どうしよっか?」

 コユキが自信満々で答えた。

「んなの決まってるじゃない、訓練とか、練習とかやって行くしかないじゃないのぉ! その内、スキピオちゃん辺りからなんか連絡あるでしょうから、そっから考えれば良いじゃないのよぉ! それより、お腹すいちゃったわよぉ! ねえ? 善悪なんか作ってよぉ!」

 コユキの横、やや後ろに立っていた幼女が、少し控えめに目を伏せて言うのであった。

「妾も善悪、兄様の手料理を食べてみたい、作っておくれよぉ! もう、限界だよぉ!」

 アスタロトが愉快そうに笑った。

「ははは、善悪、バアルに何か作ってやれよ? 疲れているなら我の魔力を分けてやるからさっ!」

 善悪は肩をすくめて言うのであった。

「やれやれ、困った弟達でござるなぁ~、んじゃ疲れているから、出汁を取ってぇ、茹でたピーマンの千切りと鰹節、生おろし山葵わさびのお茶漬けで良いかな? もー、全くやれやれでござる♪ 」

 互いに笑顔を浮かべながら庫裏くりに上がり、居間では無く台所に入って行く魔神兄弟、ゆったりとした日常は取り戻されたようである。

 反して何やら一触即発な感じのアスタロトとトシ子の二人、さらにさらに、こちらも何やら怪しさを増しているリエとスカンダの今後も混迷の度合いを増してきている幸福寺……

 とは言え、ピーマン茶漬けの単語を聞きつけた、トシ子やリエ、スカンダにリョウコとカルキノス、ちょっと濃くなったフンババに編みぐるみ達まで、一斉にヨダレを垂らしながら集まって来ている、これが幸福寺の日常である。

 美味しい物を食べた後には、今後降り掛かるであろう困難に対処するための努力や工夫を繰り返しつつ、何とか乗り越えて行く事だろう。

 まだまだ解けていない謎に向けて、笑顔と勘違い、思い込みとうっかり、ガッツと愛憎で立ち向かう『聖女と愉快な仲間たち』。

 はてさて、どうなってしまう事やら…… やれやれ(ニヤリ)

 まだまだ、目を離せなさそうである。

 とは言え、ここまでにやれる事は全てやり切った『聖女と愉快な仲間たち』。

 次に動きを顕著にするのは一年後、赤べことなったウトゥックが自我を取り戻してからだろう。

 ならば一旦、私自身も動きを止めなくてはなるまい、んが、今回の観察は私、観察者にとって大変興味深い発見に満ちた物だった事は皆さんに伝えて置きたい。

 多くの真実と因果を感じる事が出来た、有意義に過ぎる観察と経験になった事も併せて宣言したいと思います。

 私が知りたい事、その全てに辿り着くには後、もう少し。

 一年後の観察によって全て知る事が出来るのでは無いかと感じている…… 

 地球に生きとし生きる全ての命を、追い詰められた『滅び』から救い上げる為に…… もう少しなんだ……

 それでは、一年後の観察でまたお会いする事としよう。

 私の観察にお付き合いいただき、誠、感謝に絶えない。


 では、また、次の観察でお会い出来る事を祈りつつ、伏して願う観察者、私である。

 一先ず、さようなら……

 私は観察者、人々の行動を観察し、時に経験を共有する者である。


 観察の二 暴虐の狂詩曲ラプソディー 了


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拙作をお読みいただきありがとうございました。
感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)

これにて【堕肉の果て】第二章『暴虐の狂詩曲(ラプソディー)』は完結となります。
幕間、副読編の投稿に続き、第三章『苦痛の葬送曲(レクイエム)』の投稿を予定しておりますので、引き続きお付合い頂ければ大変嬉しく思います。

まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。

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