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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
295.マジカルマテリアル

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 SF物なんかでよく見る光学迷彩に似たこの隠蔽いんぺいのメカニズムについて、コユキはあまり理解していないみたいだし、特段気にしても居ない様子だが、簡単に説明して置く事としよう。

 端的に言えば、電磁波、主に光の屈折率の正負逆転させて、その方向を反転させるメタマテリアル加工された表面加工、に類似した仕組みだと言える。

 つまり、魔力や聖魔力の力によって形成された表面に、云わばマジカルマテリアルの加工を施して、電磁波のみならず、空間、場の連続性すら正、つまり我々が常識だと思っている物から非常識、不可能だと感じてしまう負へと変更させた結果、見る事も触る事も出来ない結界をこの場所に形成させて居るに過ぎないのである。

 むつかしい例を挙げるとするならば、鏡の表面、鏡面に映し出された貴方が鏡の中にいる様に見える、いないけどね。
 その逆だから、あるけど見えない、触れない、恐らく飛び込んでも扉には当たらずに、映し出された風景のオリジナルの場所に立っているだけだろう。
 そして、そちら側にはマジカルマテリアルによって作られた入り口は無い。

 山や高原を歩いていて、ふと周りの景色がガラッと変わってしまったり、反対にさっき同じ所を通り過ぎたような感覚に覚えは無いだろうか?
 ああいった感覚の殆どほとんどは今回のような空間、場をも含んだ魔力装置に干渉してしまった結果もたらされる物なのだ。

 余談になるが、光りを含む電磁波ではなく、時間にこれらの術式を施した場合、誰でも知っているデジャブ、既視感とよばれる現象を引き起こす。

 いづれにしても、魔力や聖魔力を使用して屈折率をコントロールする術式は『聖女と愉快な仲間たち』のメンバー達のスキルの中でも散見される一般的な術式と言う事が出来る。
 善悪とオルクスの『即時配達ウーバー○ーツ』やパズスの『鉄盾アスピーダ』、シヴァの『幻影ミラージュ』、そしてアスタロトの『反射リフレクション』なんかはその最たる例と言って良いであろう。

 この間にコユキは背に負った赤いリュックの中から『おーいしぃ茶糖茶(無糖)』の賞味期限切れを取り出すとジャバジャバと焚き火跡へ掛け回し、残り火を完全に消火したのである。

「は、は、は、ハクション! ハクション! むぐっ、んじゃあアンタ等ここで暫らく待っていてね! 中がどうなってるか分かんないからさ、さ、サクションっ!」

「ぶり返しましたね、でも姐さん一人で大丈夫ですかい?」

「ん、大丈夫よ、グズッ! 魔界みたいな所だと、普通の人間じゃいるだけで危ない所もあるらしいからね、ね、ネクションっ! 待ってなさい、い、イクションっ!」

「は、はい、分かりました、どうぞ気を付けて行ってらっっしゃいやし!」

「どうか、気を付けて、お姉さん!」

「うん、あんがと、グズッ……」

 扉へと近付いたコユキは、何かに気が付いた様に歩みを止めると、オンドレの方を振り返って言うのであった。

「万が一、ハクションっ! アタシが戻って来れなかったハクションっ! 時は、は、は、ハクションっ! ふ、二人、で、で、デブジャンっ!」

「だ、大丈夫ですか姐さん!」

 コユキの連発クシャミのあまりの激しさに心配そうに言うオンドレを手で制したコユキは、ツナギの胸ポケットから札束、大体四十万位だろうか? を取り出して渡しながら言葉を続けたのであった。

「先に向かいなさい、イックションっ! ハクション、ハクション、クシャ(み)、ハクション! トマ(らない)ハクション! コマ(った)ハクションっ!」

 最早普通に喋る事さえ出来ないでいるようだ。
 見かねたバックルがクールに言った。

「お姉さん、取り敢えずその扉の中に避難しなよ、俺達ちゃんと待っているからさ!」

 鼻水まみれになったコユキは頷いてヨロヨロ、ハクションハクション言いながら扉を開けて花粉から逃げるように、クラックの内側へと入って行くのであった。

 リュックの中から善悪が入れて置いてくれた箱ティッシュを取り出し、ブビーッと勢い良く鼻をかんだコユキは一息ついて言うのであった。

「ああ、グズっ! 凶悪ね、関西の花粉は、幸福寺の場所も伝え切れなかったし…… んまあ、サクッと手に入れて戻ればいっか! よしっ! 進もう」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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