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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二部 四章 メダカの王様
721.その先の向こうへ

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 洞窟の中、奥へ奥へと進んで行ったナッキであったが、洞窟の中は想像、予想していた光景とは大きく違っていたのである。
 そのまん丸な洞窟の壁は嘘みたいに滑らかで、ナッキが期待していた植物の根っこや地下茎は、どこにも姿を見せてくれては居なかったのだ。

「うん? 根っこ所か石ころ一つ無い、のか…… これじゃぁ掴まって眠る事が出来ない…… はぁ、もうクタクタだって言うのに……」

 疲れ切ってしまったナッキは、落胆しながらも呆然と洞窟の最奥まで進んでいって、そこで又、不思議な物を発見するのであった。

「あれれ、行き止まり、か…… あれ? だけどこの奥から水が流れてきているような?」

 近付いて初めて分かった事がある、それは洞窟の奥は、外の川縁と同じ様に石を並べて壁を作っていたのだが、その隙間からはっきりと水の流れが感じられたのだ。

「この石の壁の奥に川が流れているのかな? いや、そんな事よりも、こ、この石の大きさはぁ! や、やったぞ、これで安全に眠る事が出来るぞぉっ! この壁の中に埋まって眠ろう!」

 そう、そこに積まれた石はナッキに丁度良い例の大きさだったのだ。
 ナッキは安堵の表情を浮かべると、最後の気力を振り絞り、嬉しそうに石の中に体を埋め込んでいった。
 あちらこちらの鰭に酷い痛みを感じながら。

 ガラガラガラ

 丁度良いと思った石たちは無残に崩れて落ちた。
 なんと言う事だろう、石は只、表面を覆うように一重に積まれて居ただけだったのだ。
 ナッキの期待した砂利の寝床は、文字通り崩れ去ってしまったのである。

 しかし、ナッキはがっかりしてはいなかった。
 石の崩れた先からは、たっぷりと水を湛えた大きな池が姿を現していたのだ。

 少し洞窟の入り口から脇に寄れば水の流れもほとんど無い、その静かな池の縁に近い一角に泳ぎ進んだナッキは、心の底から安心して、目を瞑ると直ぐに眠りに落ちて行った。

――――ああ、もう本当に疲れ切ってしまった…… もう、本当、に……

 深く深く、眠りの深淵に落ちていく中で、ナッキは不思議な夢を見ていた。
 夢の中では、ナッキの周りに、仲間の若鮒たちが駆けつけて来てくれて、傷付き疲れ切ったナッキを慰め癒すように、いつもの様に体を寄せて集まってくれていたのだ。

――――皆が来てくれたのか…… でも、どうしてこの場所が分かったんだろう? ああ、でも暖かい…… 痛みや疲れが消えて行くのが判るよ、本当に、暖かい、なぁ……

 そう思いながらナッキは夢も見る事が無い程の、更に深い眠りへと誘われて行くのであった。

 不思議な事に、本当にナッキの体は仲間達と同じ、小さく優しい命の温もりに包まれていたのだ、夢ではなく実際に、である。

 流されて、偶然辿り着く事が出来た名も知らぬ池の中で、死んだように眠りついたナッキであったが、既に満天の星々が瞬き始めた夜空には、住み暮らした川の上空と同じく、丸く銀色の月、ルナと、いびつながら美しい金色の光を地上に注ぐ小さな月、デイモスが、小さな冒険者の行く末を、そっと見守るように輝いていたのである。


拙作をお読み頂きまして誠にありがとうございました。

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