【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
420.激論!このバカ娘がぁ!
前回までのあらすじ
コユキは増え続けて来た『聖女と愉快な仲間たち』の二軍を作るのであった。
一方、リョウコは蟹と友達以上恋人未満的な感じになって、 リエは運命の人、スカンダと再会を果たしここから共に歩む約束を交わす。
妹たち二人のスペック高めの旦那たちは、今後どのような行動に出るのか?
万が一離婚に追い込まれた時は、彼女たちの子供の親権の行方は如何に……
歓びの嬌声と屈辱の嗚咽が溢れだす世界で、愛憎がもつれにもつれる堕肉の果て……
果てさて、その結末は……
________________________
境内でリエとスカンダが一生の誓いを立てていた同じ頃、本堂に集った『聖女と愉快な仲間たち』のミーティングも佳境を迎えていたのである。
饅頭という縛りを無視するように次々と洋食やオリジナルアレンジクッキングを試作するコユキに対して、コユキ曰く、古い常識観に捕らわれている婆トシ子の古き良き日本の饅頭論が対立を激化させていたのであった。
「判らない子だねえ、お饅頭ってのは玩具じゃないんだよ! お祭りや祝言、お葬式なんかの人生に於ける一大事や季節の巡り、後は偶の旅行のお土産みたいな記念、記憶の一助なのじゃと言っておろうが! 何でこんな簡単なワビサビが分からないんじゃあぁ!嘆かわしいわい! このバカ娘がぁ!」
「それが、時代遅れ! なのよ! もう既にこの豊かな国においては満腹なんて幸せとは言えないの? いい? いっぱい食べれた、じゃあ覚えて置こうって訳にはいかないのよ? 飽食という半世紀は日本人の意識を変えたのよ! どれだけ食べられたかじゃなく、何を食べたか、どれほど美味しかったか、そんな風に人々の思い出、記憶の構築度と保存する脳内の深度も変化しつつあるのよ? アタシこそ言いたいわ、九十年も生きて来て一体何を見ていたの? ってね! 我が祖母ながら…… はあぁあ~、嘆かわしい事この上ないわよ!」
「ぐぬぬ、屁理屈だけは一人前じゃな、しかしお前の言う論理に従えば美味しい物だったら、古い新しいは関係なかろうが? 家で作る昔ながらのアンコなんかお前だって大好きじゃないか! それこそこの間だって牡丹餅一人占めして食って居ったじゃろう!」
「ははは、語るに落ちたわね! おはぎや牡丹餅が『お饅頭』と言えるのかね? 厳密に言わなくても全くの別物でしょうに! それと比べたらアタシのピロシキの方が余程お饅頭よ、餡が外とは恐れ入ったわね、だったらカレーライスも牛丼もピッツァだってお饅頭で行けるってこと? お婆ちゃんって自由で良いわねぇ~、本当、羨ましいわぁ、単純で自分に甘い人って生きて行くのが楽でしょうねえ~」
「くっ!」
トシ子は悔しそうに口を真一文字に結んで黙り込んでいる。
ストップウォッチを見つめていたアスタロトが声を発した。
「はい、時間切れ、コユキの勝ちだな、トシ子もナイスファイト!」
「やった! これでアスタに善悪、お婆ちゃんと三人抜きね! 今日は調子いいわねぇ」
善悪が腕を組み感心したように言う。
「ふうむ大したものでござるなあ、自分が対戦している時はむかっ腹が立つばかりで気が付かなかったのでござるが、ちゃんと防御と攻撃のバランス、チャンスに畳み掛けるスパートとか、なかなか考えられている気がしたのでござるよ」
コユキが誇らしげに全身をパンパン今にもはち切れんばかりに張らして答えた。
「えっへん! こちとら年季が違うからね! 簡単に言うとヤバいって時ほど攻撃的に、一息ついたら論点を変えて、ここだって攻め時には搦め手、つまり相手の言い間違いや言葉尻から切り込む感じかな♪」
「ほぉー」
なるほど、真面目な会議をしているのかと思ったら、雁首揃えてなんちゃってディベートのロープレをやっていたらしい。
負けたばかりのトシ子がつまらなそうにしながら言った。
「あー、善悪が全耐性ゲットしてアーティファクト探しも一段落、やる事が無いのもつまらないのう、弁論対決もコユキが勝ってばっかりで面白くないし」
コユキが身を乗り出してトシ子に向かって笑顔で言う。
「じゃあお婆ちゃんいいのがあるよ! 頭とりって言うんだけどね――――」
「それ、つまらないでござるよ」
「ああ、あれはつまらないな」
折角コユキが提案したのに善悪もアスタロトも一瞬で否定の声を上げた、それだけ頭とりが不毛の極みである事の証なのだろう。
***********************
拙作をお読みいただきありがとうございました!
この記事が参加している募集
励みになります (*๓´╰╯`๓)♡