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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
217.テフヌト

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 暫くしばらく続いた一方的な蹂躙じゅうりんは留まる事無く、無慈悲な交代時間を迎えるのであった。

「口白ちゃん、交代しましょ♪」

「あ、うん、んじゃ頼みます! わん! 」

 コユキの言葉にラーの口白クチシロが気楽に答える。
 因みちなみに口白にメチャクチャにぶん殴られていた間、アスタロトは歯を食いしばって痛みに耐え続けていた。
 まるで何かを目論んで、そのチャンスをジッと耐え忍んで待っているかのように……

 口白と交代したコユキが一回目のサクリを刺し込んだ時にそれは起こったのである。

「よっ♪ しまった! 『加速』」

 瞬時に『加速』を使った事で、コユキ自身にダメージは無かったものの、かぎ棒を刺される瞬間に、僅かわずかながら体を捻ったアスタロトは善悪のパパンとママンの想い出がタップリと詰まったロープを、コユキの手を利用することで断ち切る事に成功したのであった。

 蛇の下半身と片方の腕、右腕の自由を取り戻しエビ反り地獄からも解放された魔神は忌々いまいましそうに怨嗟えんさの声を上げる。

「よくもこの我を甚振っていたぶってくれたな~、人間風情と犬っころめが~、許さぬぞえ~、その可哀想な体に痛みと悔恨を刻みつ──、ツゥ────! 」

話しの途中で変な声を出して苦しみ出したアスタロト。

 それもその筈、彼の背中には肩甲骨の辺りに飛び乗った善悪の姿があり、両手に握られた白と黒の念珠がアスタロトの首を締め上げていたのであった。
 リフレクションに依る『反射』の束縛が消えた状態で、ボーッとしているほど我等の『王国のつるぎ』はのんびり屋さんでは無かったのだ!

 アスタロト同様、左腕の自由は取り戻せていなかった様だが、二本の念珠の片端を真っ白い歯にしっかりと噛み締め、自由な右手で締め上げ続けている。
 一方のアスタロトと言えば、首の苦しさに耐えながらも、自由になった右手で、何とか左手の自由を取り戻そうと必死にロープを解こうとしていた。

「ふん! 簡単には解けないのでござる、御先祖様やパパンママンや某が、毎朝毎夕、法力と聖魔力を込め続けた『けいの紐』でござる! 触れるだけで悪魔であれば、その身を蝕むでござろう! 」

 自分もリフレクションの影響で呼吸もままなら無い中、堂々と告げる密教の沙門しゃもん阿舎利あじゃり『善悪』の精神力は既に人を超えているといえるだろう。

 青黒い羊の頭蓋骨をほぼほぼ真っ黒に変じさせながら、アスタロトは遂にあの言葉を口にするのであった。

「ぐ、ぐぁ、り、リリース! くはっ! 」

 瞬間、アスタロトは唯一自由な右腕を大きく振り、周辺でボヨンボヨンしていたコユキ幻影を打ち消し、コユキ分身達を焼き尽くすのであった。

「『散弾連撃コンティショット』」

 本物のコユキは目にも止まらぬ速度で、アスタロトの目の前に現れると胸、肩、背中の潤沢な脂肪を揺らしながら数千発のパンチを打ち込むのだった。

「ははは、馬鹿め! かかったなぁ! 我が胸に宿るは『テフヌト』! 己を攻撃する全ての存在を滅死させる雌ライオンだぁ! ラーよっ! そなたの妻の力によって、己の主人は! 今! 死んだのだあぁぁぁ──っ!! 」

 コユキは死んだらしい、しかし、我等が太っちょミーティアはいつもの風情で驚きの声を響かせるのだった。

「えっ!! 今打ち殺したこの猫ちゃん…… クロシロチロの娘さんだったのっ! うあぁ! ゴメンね! 」

 そう言いながらコユキがアスタロトの胸の中央から引きずり出した、哀れなネコ科の生き物は…… 何と言うか…… アスタロトの言った雌ライオンでは無く、まぁ、普通に(悲劇)良く見る可哀想だが死んでしまった子猫ちゃんだったのである……

「あっ! アンタ、善悪ん家に向かう途中で死んじゃってた子猫ちゃんじゃない……」

「えっ? 」

 コユキの悲しみの嘆きを聞いたアスタロトは、ポッカリと空洞の空いた自分の胸を見ながら驚きの声を上げるのであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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