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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
388.浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

 続いて手に入れたのは長野県のうば捨て伝説に基づく物語、『姥捨て山』に登場するお母さんを山に捨てに行く為に優しい息子が手作りしたと言われる背負子しょいこであった。

 『こいつを見つけてくれん!』と気合を入れたコユキは長野県に向かい、その結果美味しい信州そばを食べて叫んだのであった。

「なにこれ! 全然違うじゃない! ざるじゃなかったわ、アタシとしたことが…… 店員さんお代わり頂戴! 今度はざるじゃなくてモリで! 海苔とかいらないわよぉ? モリ十人前もって来て頂戴っ!」

 その後、お代わりを四回繰り返したコユキはすっかりご機嫌な表情になり、JR飯田線で静岡に向かい、ちょっとタクシーで大名旅行(出資者は妹達)と洒落込んだ後、ローカル線でお馴染みの『天浜線』に乗り換えて、掛川の街に辿り着き、そこからテクって幸福寺に帰って、えっ? ええっ? 手ぶらのままで帰り着いたのであった。

 幸福寺に帰ってきたコユキは、満腹でボーっとしていたのか、善悪の私室に向かったのである。

 善悪の部屋は所狭しと並べられたフィギュアと、壁にびっちりと張り捲られた三角の布、所謂いわゆるペナントが隙間もなく四方を囲み、カラフルな事この上ない。 

 コユキはうっすらとした意識で思う。

――――んまあ、こんなビビットな空間で寝起きしていたら、善悪がキ印になるのも無理はないわよね

 結構失礼な事を考えながらも、法衣や作務衣の並べられたウォールハンガーの上部棚へと手を伸ばしたコユキは、古惚けた背負子を掴んだのである。

「なによ? これっていつも善悪がリュックの下に背負ってるヤツじゃないのぉ!」

 そう、求めて信州まで旅して探し続けた姥捨て山のアーティファクト、『おっ母の背負子しょいこ』は、元々幸福寺に確保済みであり、何だったら半年前、初めて魔界に乗り込む際に、虎〇さんの羊羹が大量だったら重いんじゃないか? そう考えた善悪がリュックの下に装着していた、コユキにもお馴染みのアイテムだったのである。

 このアイテムの恩寵おんちょうは、まんま背負った荷物(オリジナルではおっ母)の重さを感じさせなくなるというもの……

 副次効果として、陰鬱な気分に浸ってしまい、背負っている間中『おっ母、すまねぇなぁ~』と口遊んでくちずさんでしまうというデメリット的なものもある曰く付きの一品であり、口伝に寄れば、装着者が難題にぶつかってしまった場合には、賢いおっ母からの知恵、おばあちゃんの知恵袋的な助言を貰えるかもしれない、という中々にフラフラとした不確かな伝承に溢れた逸品なのである。

 そして最も残念だったというか、意味不明なアーティファクト、聖遺物と言えば、最初にゲットに向かった猿蟹合戦の『柿のタネ』と『美味しそうな柿の種ピーナッツ入り(小袋)』の二つであった。

 このアーティファクトの残された場所は鳥取県のとある浜辺である、そう皆知ってる蟹取り県と言って恥じぬあの人口少なめの場所であったのである。

 岩場に辿り着いたコユキの前には、大きなこずえを誇らし気に広げた松の古木が威容を放っていたのであった。

 コユキは我知らず独り言を零したこぼしたのである。

「ここか? 只の砂に塗れたまみれた砂丘だけど…… まさか? これを掘るのぉ! ええっ? マジでっ? こんなの只の砂漠じゃないのよぉ! んんんんん…… 仕方がないか、よしっ! 掘るかっ! もう!」

 そう言うとコユキは一心不乱に道具もなく、自分の手だけを頼りに砂場を掘り進め始めたのであった。

 ホリホリホリホリ、ザッザッザッザッザザザザザ…… 

 掘り進めたコユキの前に現れたアーティファクトが、『柿のタネ』であった。

 こげ茶色でカサカサに乾いたその種は、芽吹かねぇだろこんなもん? という大方の予想のままにコユキの手に握られたのであった。

「よしっ! これでこの地、鳥取で手に入れるべきアーティファクトは終いしまいよねぇ、ん? んん? なんだ? この吸引力はっ? ひ、引き込まれるわよぉ!」

 茶色で地味な『柿のタネ』を手にしたコユキは、頭に被った『傘地蔵の傘』、その力に引きられる様に砂場の中をズルズルと進んでしまうのであった。

 言うまでもなく笠を被った頭が引っ張られる、程なく砂に足を取られたコユキは転倒し、顔面を砂だらけにしながら引き摺られ続け、ゴチンと硬い物にぶつかって漸くようやく動きを止めたのであった。

「ぺっ! ぺっ! んもう砂塗れまみれじゃないのぉ! ん? この木は黒松か? 願っていたのは『猿蟹合戦』のアーティファクトだって言うのになんでここに連れてこられたのかしらね? ん? んん!」

 口に入った砂を吐き出し、コユキが疑問を口にした後周囲を見渡すと、うっすらと本当にうっすらとした子供の様な毛むくじゃらの存在が、松のこずえから半分だけ体を見せて、こちらを見つめていることに気が付いたのである。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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