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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
398.正の遺産

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 翌日、傷付いた善悪のメンタル面を心配し、ついででは有るが染み付いた牛糞の匂いが不愉快だったコユキは、次の遠征まで三日の休養を取ることを提案し、無事受け入れられたのである。


 そして中三日後、コユキと善悪の二人の姿を兵庫県神戸市の若松公園に見る事が出来た。

「うへえぇ~、これ程の物だとは…… 迫力ね、デカイわ~、ニュースで見てたけど本物は別格ねぇ~」

 高さにして十五メートルを超え、重量は驚異の五十トンを誇る鉄人が戦闘に向け堂々とした構えを取る姿は圧巻の一言である。 

 若松公園。

 この公園の名前を聞く時、中年真っただ中である二人には忘れたくても忘れられない、いいや忘れてはいけない地球の暴威がいつも付いて回っていた。

 阪神淡路大震災。

 睦月むつきの未明、近代都市神戸に戦後初の激甚げきじんな被害と破壊をもたらした大地震は、日本のみならず世界中が注目する惨劇を引き起こした。

 マグニチュードは七を超え、都市部で頑強に敷設ふせつされたと信じられていた近代建設の多くが、その神話の多くが砂上の楼閣ろうかくであったと人々に露呈した大災害であった。

 崩れ落ちた高速道路、電気も水道もガス、電話まで、全ての生活インフラを失った都市機能は完全に麻痺していたのである。

 直接の被害者も六千人を優に越えてしまい、大阪、京都の二府にまで被害は広がったのである。

 当時中学生であったコユキや善悪も、テレビに映し出されるショッキングでどこか現実離れした被災地の様子に、恐怖と嘆きを感じつつ見入った事を覚えていた。

 現実は如何にしようと現実であった。

 二人の通う中学でも、毛布や衣服、保存食や飲料水、パニックの中でも必死に被災地へ送る物資を集めたのであった。

 コユキも自分が編んだ編みぐるみを、セーターや毛糸のパンツに編み替えて数百着以上を供出した事は今でも忘れていない。

 支援が十分だったか? どこまでしたとしても、地元を破壊され、愛する人や家族を失い、今までの当たり前を奪いつくされた人々にとって十分になる筈など、無いのである……

 しかし、十年以上の歳月を要し、被災者たちは自ら立ち上がるガッツを世界に示したのだった。

 ルミナリエのガレリアを潜るくぐる人々は取り返した文明の清廉な光に未来への薄らとした希望を感じては年を跨ぎつづけ、地元球団の快挙に声を枯らして声援を送り続けた。

 頑張ろう神戸!

 自らに言い聞かせるような人々のガッツは悲しみを振り払うかのように、世界でも類を見ない程の速度でこの町の復興を果たした。

 被災後、仮設住宅が並び、人々の共助の舞台、人情と惻隠そくいんの象徴であった場所、多くの場所で『やさしさ』と『思いやり』が正に実践された、ここ若松公園もその一つであった。

 その後も多くの天災、人災に見舞われた日本は、令和の時代になっても尚、規格外の災害や、病魔新型コロナの蔓延に恐々とした日々を送っている。

 人は脆弱ぜいじゃくにして蒙昧もうまいで、大きな力に抗えない下らない存在なのであろうか?

 今コユキの前に聳えそびえ立つ鉄人はそうは言わないであろう。

 人は悲しみや絶望を乗り越えて、再び立ち上がる。

 悲劇を繰り返さないように、絶望を儚き希望に置き換えながらも、健気に気を張り続けていくのだ。

 語らぬ鉄人が、人類の浮かべる無理丸出しの我慢強い作り笑いを象徴しているようで…… 美しかった。 

 思えば、あの未曽有の悲劇の後、様々な意識が日本人の中に生まれたのではなかろうか?

 災害に備える心と物資、ご近所への声かけ、生活インフラという言葉は現在ではライフラインと呼ばれている。

 子供でも知っている災害発生から七十二時間が生存確率に大きく関わるラインだと言う事もこの悲しみが教えてくれた事である。

 未だ被害は消えない……

 今後も同様の悲しみは繰り返されるのかもしれない、しかし、コユキは目の前で格好良いポーズを取り、どこか遠く、まるで日本の未来を見据える鉄人の瞳に力強い人の営みの姿を見出すのであった。

 負けない、決してどんな困難にも、悲しみを乗り越えて生き続けて見せる、死に瀕して笑って終われる様に、と…… 

 ライコー四天王の予言による確実な自身と善悪の消失を思い出しながら言うのであった。

「まあ、人類の死亡率は百パーだもんね! 頑張って生きるわよ! 無理して無理して頑張って頑張って生き捲るわよ! 見ていてねっ、鉄人さん!」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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